鬼はもとより

高柴です


先日直木賞を受賞された青山文平さんの「鬼はもとより」を読みました。

鬼はもとより (文芸書)

鬼はもとより (文芸書)

面白かったです。長編なので読みごたえがありました。
簡単にあらすじと感想。
奥脇抄一郎は、数年前まである小藩で武士として禄を食んでいた。ダラダラと変化のない日々を過ごしていた抄一郎は女遊びにはまっていた普通の青年だったが、藩札作りに関わるうちにその面白さに魅了される。だが、彼の藩札作りの師ともいえる人物が亡くなり、家老から藩札を預かる者として承認できぬ無理を命じられて、抄一郎は版木を持って藩から逃げることを決意。江戸でなんとか暮らしていたが、抄一郎の藩はそれからまもなく無理な藩札の割り増しをきっかけに混乱に陥り、とうとう改易となる。
抄一郎が藩札に詳しいという噂は意外にも江戸で知られており、さまざまな藩から藩札についての相談が寄せられてくるようになった。抄一郎は、その相談に乗ることで報酬をもらう藩札よろず指南としての道を歩み始める。そして、自分の藩がなぜ藩札作りに成功していたにも関わらず飢饉に負けてあっさり壊れてしまったのかを知りたいと望むようになり、その答えをある藩の立て直しで得ようと考えるが……。


武士って本当に気の毒だと思います。所得税法人税とればいいんだよ!!ついでに相続税もとれよ!と、今の感覚だと思いますけど、そういう考えがなかった時代ですからね。収入源はお米。そりゃ貧乏にもなるわ。黙って貧乏を受け入れていた武士は人が良すぎ。
藩札、つまり藩が発行する貨幣ですね。江戸時代にこれだけしっかりした貨幣経済が存在したというのは本当にすごい。ちゃんと理解していた人は少なかったと思いますが、それだけ世の中が安定していたということでしょう。当時、正貨、つまり小判とかそういうお金ですね、を発行できたのは幕府のみ。で、幕府は自分たちが使う分しか作らないから、お金が地方までまわらなくて貧しくなる。だったら自分たちでお金作るわ、というのが藩札です。お金がまわらないと経済が衰退するとわかっていた人の聡明さにうっとりしますが、この本はそういう当時の経済のこともわかりやすく説明してあります。
江戸の経済といえば、私はどうしても大好きな佐藤雅美さんが浮かぶんですが、佐藤さんほどのリアルさはないです。なにもかもすんなりいきすぎかな?と思ったりもします。でも話に勢いがありますし、華もあります。やや主人公が完璧かなと思いますが、周りの強力なキャラを持った魅力的な脇役たちと一気に盛り上げて一気にラストになだれ込む感じは好きです。ラスト50ページくらいはもうドキドキドキドキ。ものすごい緊張感でした。
迫力のある時代小説を読みたい方におすすめ。