つまをめとらば

高柴です


直木賞受賞作、青山文平さんの「つまをめとらば」を読みました。

つまをめとらば

つまをめとらば

面白かったです。
時代小説の短編集で、夫婦というか、男と女、がテーマになっているのかな。
人の心の動きを丁寧に描いていて、すっと心に入ってきます。お話もちょっとひねってあるのが面白く、ある意味予想できない結末がいつも待っています。
表題作を合わせて全部で6編入っています。ちょっとだけあらすじと感想。


「ひともうらやむ」
本家の惣領であり、良き友人だった克巳がかぐや姫もかくやと思わせる娘を妻に迎え、破滅の道を進むことになった。庄平は物足りなさを感じていた地味な妻と困難を乗り越えていくにつれ、だんだん妻を見直すようになるが……。
ラストがけっこう衝撃的でした。ああ、でもそうかも!って思わず思ってしまいます。
「つゆかせぎ」
旗本の家で勝手掛用人を務める「私」は、急死した妻の朋が戯作を書いていたことを亡くなって初めて知った。かなりきわどいことを書いていたと推察され、さらに他にも気になることがあって妻の作品を読む気になれないでいる。妻の朋は生前、夫が業俳、つまり俳句を詠むプロになることを望んでいたが「私」はそのことから目を背け続けてきた。だが、仕える家の知行地の稲が不作だという知らせが届き……。
俳句というなかなか珍しい世界をのぞきつつ、主人公の迷いや悩みが自然で丁寧。朋と銀というさっぱりしたたくましい女性たちもよかったと思います。
「乳付」
身分違いの家へ嫁に行き、なんとか男児を産んでほっとしたのもつかのま、そのまま寝込んだ民恵は次に気づいたとき、息子にはすでに親戚の女性が乳をやっていると聞かされる。その女性は美しく、乳がなかなか出ない民恵はあせってその女性に嫉妬する。だがその女性は穏やかで、民恵はその女性の意外な過去を教えられ……
これは、女性が主人公。民恵の気持ちがすごくよくわかります。子供産んだことないけど(笑)周りがみんないい人ばかりで、そういう人たちに囲まれているから賢い民恵はちゃんと気づくことができたんじゃないかなと思いました。
「ひと夏」
困窮する柳原藩に仕える高林家の次男啓吾は、22歳の今日まで当主である兄の世話になってきた。だが、その啓吾に新しくお役、つまり仕事を与えるというありがたいお達しがくる。だが、兄も啓吾も素直に喜べない。藩の苦しい財政状況を考えると、それはやっかいな仕事を押し付けようとしているとしか思えなかったからだ。二人の予感は的中し、啓吾は藩の飛び地になっている領地の支配所に赴任する役目を与えられる。その領地は杉坂村といい、そこへ任じられたものは2年ももたずに鬱になって帰ってくるという不気味な地だった。啓吾はそこへ行き、柳原藩を見下す村人たちの驚くほど無礼なふるまいを目にすることになるのだが……。
杉坂村が幕府直属の御領地に囲まれているというのが話のポイント。時代小説好きなら、ああ、ナルホドなーと苦笑いするところですね。年貢とか全然違うもんね。穏やかな話が続いていましたが、これは笑いありチャンバラありとなかなかにぎやかでした。ラストも普通じゃなくてニヤリ。
「逢対」
泰郎は、平たく言えば無職の貧乏旗本だ。お役につきたいと望むこともなく、算学の面白さに惹かれている。変わらぬ日々を過ごしていた泰郎だが、よく行く煮売屋の女主と男女の仲になる。その煮売屋の里を嫁にもらおうと思いつつも踏ん切りがつかない泰郎は、先に今まで向き合ってこなかった武家というものをきちんと知ろうと思い立つ。そして、幼馴染の義人に頼んで彼と幕府の重役についている若年寄の家へ逢対に行くが……。
衝撃のラスト。思わず声を出して笑ってしまった。コレが一番好きかもしれない。
「つまをめとらば」
女運がなさすぎる省吾は、たまたま10年以上も顔を合わせていなかった幼馴染の貞次郎と再会する。貞次郎は省吾の家の庭にある貸家があいていると聞き、そこに住まわせてくれるよう頼む。
こうして56歳男二人の生活が始まったが、それは一見奇妙で、そしてとても平穏な心地よいものであった。貞次郎との生活にこれまでの苦労が癒される省吾だったが、貞次郎には結婚を考えている女性がいて……。
表題作。おじさん二人の雰囲気がよかったです。このままでいっかな……と思い始めたころに昔関わりがあった女性が出てきて流れが変わるというのが面白く、女ってたくましいしずうずうしいものよねとフフと笑って本をパタンと閉じました。
どれも普通に終わらないけど、奇をてらうわけじゃなく、こちらになにかを押し付けようとしないところが心地よかったです。