影法師

高柴です


百田尚樹さんの「影法師」を読みました。

影法師 (講談社文庫)

影法師 (講談社文庫)

百田さんの時代小説ということで、どんなかんじかな〜?とわくわくしていたのですが、なかなか面白かったです。
文章が爽やかで、この作品によく合っていました。
軽くあらすじ。ネタバレあります。





茅島藩の筆頭国家老として二十余年ぶりに江戸から故郷に帰ってきた名倉彰蔵は、昔の友人のことを部下に調べさせる。その友人は、彰蔵が江戸へ向かったほぼ同じころにある事件を起こし、そのまま逐電して行方不明になっていた。
部下からその友人彦四郎はすでに亡くなったという報告を受け、彰蔵は彦四郎との出会いと彼と共有したさまざまな出来事を思い出す。
食禄二十石の下士の家で生まれた彰蔵は子供のころに父を悲惨な状況で亡くし、母と妹と三人で貧しさに耐えて暮らしていた。当時の彰蔵の名は勘一といった。
あるとき、勘一は通っていた私塾での成績を認められ、特別に下士は入学できない藩校への入学を認められる。そこで彦四郎と仲良くなった勘一は、彦四郎という男の優秀さに素直に感心するようになる。彦四郎は学問も剣術も易々と一位をとるような男だった。しかし彦四郎は自分にはない勘一の良さを誰よりも理解し、二人はお互いに尊敬しあう理想的な友人関係を築いていく。
実力があった勘一と彦四郎は元服後、どちらも順調な出仕のスタートを切った。しかしその後の二人の運命ははっきりと明暗がわかれる。
幸運だった勘一はその後筆頭国家老にのぼりつめ、不運だった彦四郎は落ちぶれて最期は貧しい暮らしの中で病に倒れた。
ずっとそのことを考えていた勘一は、彦四郎のことを調べるうちにある事実を知り衝撃を受ける。自分はただ“幸運”だったのではなく、友に守られていたのだと…。



みたいな話。
うーん。面白かったけど、あまりスッキリはしなかったなー。
彦四郎は確かに可哀想だけど、なにより勘一が可哀想すぎる。たぶん、彦四郎は自分よりも勘一のほうが大きなことができると見抜いてたんだろうけど、ある意味丸投げってやつですよね。勘一は一生懸命自分ができることを誠実にやってきただけなのに、めちゃくちゃ大きな“悔い”を抱えることになってしまったっていうのが後味悪いかな。
こういう「友情」ってアリなのかもしれないけど、私は理想とはしたくないですね。周りは幸せになっても肝心の二人が不幸すぎて…。
あと、文庫についてた袋とじは完全に蛇足だと思いました。連載最終回に掲載された「終章」で、単行本のときは未収録になっていたもの。わざわざ袋とじなんてものにしてるから、いったいどんな話が読めるのかと思ったら…。単行本で未収録にした人はエライなー。せっかく「男の友情」で感動的に締めくくったのに台無し…とまでは言わないけれど、テンションは下がりました。
と、ちょっと愚痴っぽくなりましたが、最初にも書いたように文章は爽やかで読みやすく、面白く読めました。ひとつひとつの事件が丁寧に描いてあって、かつスピード感もありぐっと引きこまれました。武士として、人として、まっすぐな男たちは見ていて爽快ですね。



高柴