伊賀の残光

高柴です


青山文平さんの「伊賀の残光」を読みました。

伊賀の残光 (新潮文庫)

伊賀の残光 (新潮文庫)

簡単にあらすじと感想。
62歳になる山岡晋平は、三十俵二人扶持の大久保組伊賀同心として大手三之門の門番の役目を勤めている。一人娘を嫁に出し、妻には先立たれていることもあって一人で趣味と実益を兼ねたサツキ栽培に励む穏やかな日々を過ごしていた。若いころは剣の腕を賞賛され、サツキ栽培も玄人並みだったが、晋平はこだわりのない性格でそれが周りには限りなく自由に見え、それをまぶしく、うらやましく感じていた者も多かった。
このままお役目をこなし、サツキを育てて穏やかに生きていくのだと思っていた晋平は、幼馴染の佐吉が殺されるという事件に遭遇してこれまで見えていなかったものを見ることになる。晋平には幼馴染と呼べる友が4人いた。一人は数年前に亡くなっていたが、姿を消した彼の息子が佐吉の事件と繋がっていくのを感じ、晋平は調べを進めていく。
そして、その中で次々とよく知っていると思っていた幼馴染たちの秘めた想いを知るようになり……。


晋平がカッコイイです。男が憧れる男というやつでしょうか。
次々と知らなかったこと、知ろうとしなかったことが明るみに出る中での晋平の振る舞いの見事さ。人の気持ちの動きの繊細さ。そういうところは本当にお上手だなと思います。私が特におおっと思ったのは、娘と婿の蜆の佃煮の買い方。娘は値段と味の総合点でコレが一番と言って父に佃煮を渡し、婿は値段を考えずに自分が一番おいしいと思う佃煮を父への土産にする。これが男と女の選び方の違いよねと思わず納得。女は総合点を気にするんですよね、さらにそれを口に出しちゃう。私も晋平の娘と同じ買い方をするので妙におかしかったです。
青山さんの作品と3作続けて読んで、優しい作風だなと思いました。作者の言いたいことや望みが優しいなと。素敵な作家さんだと思います。
今回はラストがいいですね。誰かと話したくなります。征士郎は暗殺したかどうかについて。私は、しなかったと思うんですよねぇ。状況証拠はそろってますけど、なんとなく違うんじゃないかと。サツキの思いや征士郎の芸を考えると、違うと信じたい。考えさせられるラストでした。