姫路城 凍って寒からず

高柴です


最近よく経済がニュースになっていますね。
そもそも私が時代小説を読み始めたきっかけは江戸時代の経済について勉強したいと思ったからでした。今ではすっかり娯楽のほうばかりを求めていますが…。
さて、そんな私にピッタリだったのがコチラ。

寺林峻さんの「姫路城 凍って寒からず」です。
江戸時代後期、名門酒井家の家老としてなんと七十三万両もの負債を完済させた河合道臣(寸翁)の物語。
当時酒井家が治めていたのは姫路藩。瀬戸内にある豊かな土地で、多くの大名が賄賂を使ってでもと望んだ姫路藩だったが、酒井家の借金は年貢収入の約7倍。とても節約でなんとかなる額ではない。
姫路藩にお金を貸していたのは大坂の銀主(金貸し)たち。彼らは、いつ貸し倒れるかわからないリスクの高い大名貸しを引き受ける代償として、目が飛び出るほどの高い利息を要求した。
道臣は、その理不尽な利息に疑問を持ち、このままではいけないと考える。
江戸時代の財政政策というのは節約主義。入ってくるお金(年貢)は変わらないのだから、とりあえず節約をし、借金を返そうという発想だ。でもこれは結局今でいうデフレを引き起こすだけ。
道臣は思う。節約をし、城下の民にも厳しい節約を命じているだけでは、どんどん暗くなって生きる楽しみも奪われるのではないか。そもそも節約では根本的な解決、借金の元金返済もままならずひたすら利子だけを返し続けることになるのではないか、と。
そこで、道臣は産業を興すことを発案。まずは古くから姫路藩で作られていた木綿に注目する。そして木綿をまず大坂の問屋におろし、そこでたっぷり手間賃をとられて江戸へ出荷されるという従来の流れを断ち切り、姫路藩で直接江戸に送れないかと計画を練るのだが、その計画は難航する。
大坂の銀主の冷ややかな対応や姫路藩の家臣たちの不満、そして姫路藩を支える大庄屋たちの抵抗。
まさしく四面楚歌だったが、それでも常に道臣を信じ、彼を励ます人たちもいた。
凍って寒からず
とは、身辺は凍りつくように寒くても気持ちを熱く保っていれば心中まで凍てついてしまうことはないという意味。
落ち込みそうなときにこの言葉を口にし、自分を奮い立たせて将来を見据えて姫路藩のため、そして日本という国のために改革を進めていく。



みたいな話でした。
部屋にこもってじっと書物を読みふけるのが最上の楽しみという学者肌の道臣があるとき突然財政を担当させられ、困惑しつつも物事の本質を見極めて財政改革に乗り出していくという話の流れも良かったです。
江戸時代の三大改革って全部「節約」なんですよね。でも、あれって全部成功したとはいえないわけです。節約って、わかりやすいんです。お金を使わずに貯めるっていうのは多くのご家庭で行われていることですし。でも、国の政策としてそれが正しいか、といわれるとうーん。江戸時代は、幕府が考えていたよりもっと経済的に発展しちゃった時代だったんでしょうね。いろんな意味で興味がつきない時代です。
そんななか、道臣はきちんと正しい財政政策をおこなった。あの時代でそれはすごいことです。それまで財政に関わっていなかったために、「常識」にまったくとらわれていなかったことが幸いしたのかもしれません。
こんなに素晴らしい人材が大名家の家老にいたんだな〜と驚かされました。




高柴