漂砂のうたう

高柴です



木内昇さんの「漂砂のうたう」を読みました。

漂砂のうたう

漂砂のうたう

恥ずかしながら木内さんのお名前を知らなかったのですが、きれいな言葉を書く方ですよと教えていただき、読んでみました。
直木賞受賞作のこの「漂砂のうたう」、面白かった!というかんじではないのですが、ぐっと世界にひきこまれました。
登場人物の性格や考え方、動き方、しゃべり方がものすごく丁寧にわけてあって、セリフひとつで誰がどんなふうにしゃべっているか頭に浮かびます。
舞台は明治に変わったばかりの混沌とした東京の根津遊郭
御家人の次男だった定九郎は、中見世美仙楼の立番として働いている。立番というのは、廓の男衆の中で下っ端ではないが責任者でもないという中途半端な地位。目的も居場所も持たずぼんやり生きる定九郎にふさわしい位置でもある。
静かに自棄になっている彼の周りにいるのはさまざまな人たち。定九郎の直属の厳しい上司であり、廓のために懸命に働く龍造、廓という籠の鳥でありながら常に凛と気高い小野菊花魁、定九郎の行く先々でひょっこり顔を見せる噺家の弟子だというポン太、近くの賭場を任されている山公。
変わらない鬱々とした日々。
過去に良い思い出があるわけでもなく、未来に希望があるわけでもない。
あてもなくふらふらと生きている定九郎だったが、昔一緒に働いていた男に小野菊花魁の足抜けを手伝えと言われて彼の日常の歯車が狂いだす。
小さな意地や絶望が定九郎をより暗い場所へ導こうとする。
定九郎はなにを失い、何を守っていたのか。
それを悟ったとき、定九郎は力強さを少し取り戻すのだった。


みたいな雰囲気。
ぼんやりしたあらすじですみません。
なんていうか、霧の中にずーっといるようなお話なんです。
そして最後にスッと霧が晴れるような、そんなイメージです。
あまりこういうお話は得意ではないのに最後まで飽きずに読めたというのは私にとっては珍しいことでした。
静かなお話が好きな方には特にオススメ。


ネタバレになりますが、読み終えた方へひとつだけ。
小野菊の情人ってどっちかわかりました?
私は最初はうろちょろしてた方だろうと思っていたんですが、途中でもしかして師匠の方?と混乱しました。
だってお姫さんっていう呼び方とか、師匠が全部知ってたこととか、あと師匠の創作噺とか、なんかどっちにもとれるかなって。
でも、「彼」が最期に着た衣装を知って、やっぱり「彼」だったんだなと私自身はそう解釈しました。小野菊花魁が廓に売られたときに着ていた衣装を考えるとそういうことかなと。
まぁどっちでもいいのですが、意外とそこがミステリーでちょっと楽しめました(笑)




高柴