夏天の虹〜みをつくし料理帖

高柴です


高田郁さんのみをつくし料理帖シリーズ「夏天の虹」の感想です。

夏天の虹―みをつくし料理帖 (角川春樹事務所 (時代小説文庫))

夏天の虹―みをつくし料理帖 (角川春樹事務所 (時代小説文庫))

前回の心星ひとつの感想と同じく、ネタバレなしのざっくり感想→各話の簡単なあらすじ+感想(オチはあかさないけどネタバレ有り)→読み終えた人にしかわからないネタバレの塊(オチも当然書き散らします)の順で書いていきます。ネタバレが嫌な方はご注意ください。
前回の感想のときにも書きましたが、私は野江ちゃんと源斉先生が大好きです。そのこともご了承くださいませ。


みをつくし料理帖シリーズ〈悲涙〉の第7弾!とありましたが…。今回も宣伝詐欺じゃありません。明るい気持ちで読み終えることはできません。
今回も特別付録の瓦版があったのですが、なんと次巻発売は1年後!!
待てないよ…。
話の中身だけで十分気持ちが重くなったのに、1年後という文字にくじけそうになりました。
今回は全体的にわりと暗かった印象です。料理も地味めでしたし。たぶん今がシリーズの底なんじゃないかなと思います。澪と読者の苦しみという点で。
そんな感じで、ちょっとしんどいですがシリーズを追いたい人は読まないと次巻で浦島太郎さんになりますよ。つまり話がまた大きく動きました。
なんかテンション低いですが、話そのものは良かったので、オススメです。ぜひ読んでください。
あ、電車で読まれる方は注意してくださいね。泣きますよ!花粉症なんですぅ〜みたいな小芝居をする羽目になりますよ!私みたいにね…。
ネタバレなしはここまで。以下、ネタバレ(オチなし)注意。





冬の雲雀――滋味重湯
小松原との縁談の話を断り、料理人として生きていくことを決めた澪は、小松原に自分の決意を伝える。澪の気持ちを思いやる小松原は、案ずるな、すべて自分に任せるように、と応える。
小松原が澪の決意を守るためにとった手段はあまりに彼に重い負担を強いるものだった。
小松原への辛い想いをこらえ、さらなる精進を誓う澪は常連客のご隠居がふともらしたひとことからある重大な事実に気付き、心労が重なって体調を崩す。
そんな澪に源斉は穏やかに本当に大切なことは何かと問い掛ける。


小松原がやたら格好いいです。ラストの澪とご寮さんのやりとりが泣ける。この話ではご寮さんの澪への深い愛情に泣かされました。やはり素敵な女性です。
一柳の料理人はえらくあっさり退場しましたね。出てこないかもと思っていたので登場がまず意外だったのですが、出番が一瞬でまたびっくり。なかなか良さそうな人でしたし、もう少し一柳仕込みの料理を見たかった気もします。


忘れ貝――牡蠣の宝船
翁屋の伝右衛門がつる家を訪れ、澪の縁組みが壊れたことを知る。すると次の三方よしの日には又次の姿が。伝右衛門の心遣いにつる家は活気づく。澪は野江の弁当に野江から返された蛤の片貝を添える。再び片貝を届けることで自分の想いが伝わるようにと澪は願う。
つる家の客のためにそろそろ新しい料理を作りたいと考えた澪は、又次の助言を聞いて食材を牡蠣にしようと決めるが、なかなかいい料理が浮かばない。
試行錯誤しながら牡蠣を相手に奮闘する澪のもとへ小松原との縁談の顛末を聞きつけた美緒がやってくる。憤慨する美緒に初めて澪は自分の口からすべての真相を打ち明ける。すると美緒は澪を励まそうと意外なことを言い出す。美緒の言葉に澪の胸はざわめくが…。


美緒…彼女はいつも安定してピントがずれていますね。ある意味このブレの無さはすごいのかも。たまに、うん。もういいからちょっと黙ってようか?と思うのは私が彼女を苦手にしているから?
久しぶりに料理に没頭する澪が好ましかったです。又次との料理人コンビネーションにもますます磨きがかかって、次々に並べられる料理にわくわくしました。
野江ちゃんが何も聞かずに片貝を懐に入れてただ祈っている姿が想像できて涙が。言葉はなくともお互いに思い合う二人の友情が伝わりますね。
しかしいい女は他にもいます。そう、つる家の妖怪にして看板娘、りうさんです。ラストのりうさんの言葉にはもう泣くしかありませんでした。澪は本当に素敵な人たちに支えられていますね。そして彼らの期待に応えて成長を続ける彼女は立派に強くなりました。この巻は辛いことが重なりますが、澪の成長に目を見張る思いでした。今までのすべての経験を糧にしているなと、それを強く感じました。


一陽来復――鯛の福探し
澪の鼻が突然きかなくなる。それに伴って味覚も失い動揺する澪。すぐに源斉に診てもらうが、原因は心労が重なったせいで、すぐには戻らないだろうと告げられる。料理人として生きると決めた澪は新たな試練に思い詰め、今後のつる家を案じる。
そんな澪のために種市は助っ人としてなんと又次を翁屋からふた月の約束で借り受けてくる。さまざまな条件とあさひ太夫の後押しがあって実現したことで、澪は心から有り難く思う。
又次は料理人として存分に腕を奮い、彼の料理は客からの評判も上々。
その様子をみて澪は安堵しつつもつい卑屈な気持ちになるのを押さえられずにいた。そんな澪のもとへ一柳店主の柳吾が現れる。柳吾の忠告は澪をまたひとつ成長させ、澪は素直に感謝する。
そんなある日、つる家に伊佐三おりょう夫婦が卒中風のあと静養している親方を連れてくる。
食が細くなったという親方においしいものを食べてもらおうと澪と又次は知恵を出しあって料理を作るが、予想に反して親方の箸は進まない。親方の言葉が胸に残った澪は、源斉からの助言によってあることに気付く。
食べる愉しみを思い出してもらいたいと願う澪が考えた料理とは?


澪にまた試練が。もうこれ以上澪を苦しめないでと思いつつ、立派に自分を成長させる彼女に感動しました。柳吾さんがいつのまにかいい人に。柳吾さんの話を聞いた次章の坂村堂さんの言葉が響きました。澪の素直さは天性の味覚と同じくらい大きな宝ですね。
あと、又次が大活躍で楽しかったです。今までは澪の補助という立場だったので目立ちませんでしたが、腕のいい料理人なんですね。
ずっと親方の介護で影が薄かったおりょうさんもいて賑やかでした。太一も久しぶりに活躍したし。絵が上手だなんて素敵ですね。
料理のほうはナルホドなーとは思うけれど、仕方ないとはいえ地味でした。ちょっと残念。話は良かったんですが、他の章もけっこうメイン料理が地味なのでもうひと工夫ほしいと思ってしまう我儘な読者心。
鯛は私も大好きです。母から鯛は捨てるところがないまるごとおいしい魚だと教えられて以来ますます鯛に尊敬の念を抱くように(笑)しかし九つ道具のことは知りませんでした。機会があれば探したいですね。


夏天の虹――哀し柚べし
澪の嗅覚と味覚はまだ戻らない。しかし澪は又次や他のつる家の人々のおかげで前向きに考えられるようになっていた。又次も優しい人々と日々を過ごすうちに、本来持っていた温かい性格が表にも現れ、料理人としても大きく飛躍する。
父娘のように仲良くなったふきに丁寧に料理の手ほどきをし、自分を信頼する種市を父親のように感じる。今まで一度も体験したことのない“平凡で穏やかな日々”
しかし翁屋伝右衛門との約束の期日は目前に迫っていた。さらに澪は種市から、又次はもう三方よしの日にもつる家に来られないと告げられる。それがふた月又次を借りる条件のひとつだったと。
澪はこれからのことへの不安に動揺を隠せないが、又次はそんな澪にあえて厳しい言葉をかける。
又次がつる家で働く最後の日。そこには客たちに温かくねぎらわれ、素直に礼を返す又次の姿があった。又次は客たちからも惜しまれつつ、つる家での料理を終える。
翌日の昼、夕方には翁屋に戻りたいという又次のためにつる家でささやかな又次を送る宴が開かれた。
又次が出るころにはおりょうさんも駆け付け、全員で又次と翁屋にひとこと礼を言うという種市を見送る。
それから30分ほど経ったころ、澪はふきから又次がたすきを忘れていると言われ、二人を追い掛けることに。
二人に追い付いた澪は、帰りは種市と帰ろうと吉原の大門の外まで同行することになったが…。


清右衛門先生がまた良かったです。めちゃくちゃ口は悪いですがおいしいものを作る料理人を大切にして育ってほしいと願う姿勢は食い道楽の鑑。又次と澪に言った言葉の意味が気になります。澪がつる家を離れられないなら又次が吉原で荒稼ぎすべきってこと?とにかく二人いたら選択肢が広がることは確かですよね。
そんなわけで若旦那早く帰ってきて。そろそろ読者が忘れそうだよ。私は忘れないけど。次くらいに出てくると予想します。1年後だけどね!
ふきちゃんがいつのまにか大きくなっててびっくり。控えめだから目立たないけれど、さりげなく彼女の成長があちこちで垣間見えて微笑ましかったです。将来は澪の右腕になったりするんでしょうか。楽しみです。
りうさんとご寮さん、おりょうさんの又次への贈り物にぐっときました。みんなお母さんですね。


オチなしネタバレ感想はこれくらいで。
以下、オチもしっかり書くので読んだ方のみどうぞ。





今回は又次が活躍するなぁ、もっと源斉先生を見たい!源斉先生、相変わらずおいしいとこ持っていくようにみえてなんか影が薄いよ!と、ちょこっと不満に思っていた私。ラストでああそういうことだったのか、と。
又次の成長、幸せ、あさひ太夫への深い想い、そして死。
まさかの急展開に呆然。
もっとも予兆はありました。霜月に酉の日が3度ある年は火事が多いとか、澪の嗅覚が戻るのは「もとの心労を忘れさせるほどの幸福、あるいは逆にさらなる不運に見舞われたとき」かもしれないという源斉先生の言葉とか。まさか不運のほうで戻るとはまったく思ってもいませんでしたが。
結局、彼の口からあさひ太夫との経緯を聞くことはできませんでしたね。又次が命をかけて守り通したのはどういう想いがあってのことなのでしょう。
希望をみせておいて絶望させる過酷さ残酷さ。しかしこのシリーズをここまで追ってきた読者として、これも運命かもしれないと納得できました。みをつくしはいろんなことを「受け入れる」お話なのかもしれません。
あさひ太夫のこれからも心配です。大きな怪我はなかったようでそこは本当に安心したのですが。野江ちゃんが大好きなので、又次を悼む気持ちと同時にこれからの彼女のことを案じる気持ちとでごちゃごちゃしています。
大好きといえば源斉先生!私は番付に載ったことがありませんと告白する先生がかわいかった。源斉先生は料理に対する助言はできないけれど「人を思いやる」という気持ちの達人ですね。そんな源斉先生の言葉は澪をときには支え、ときにはハッと何かに気づかせてくれる。この巻ではあまり存在感がなかった源斉先生ですが、お元気で相変わらず素敵だったのでもう十分満足です。それ以上望んではいけない気がしましたよ。でも源斉先生ファンとしては、最後は思いっきり幸せになってもらいたいなと願わずにはいられません。


ラストの又次ですべて持っていかれましたが、この巻の感想では澪と小松原の恋に決着がついたことに触れずにはいられないでしょう。
前巻のラストで、結婚はないかなぁと匂わせていましたが、まさか小松原がこんなに早く他の女性と結婚するとは。驚きました。
相手の女性はどこかで出てくるんですかね〜。なんとなく、今をときめく老中〜守の遠縁の姫みたいなかんじでしたね。江戸時代ってわりと権力者の失脚って多かったみたいですから、その〜守が失脚して云々みたいな展開がきたりするんでしょうか。個人的にはそんな展開は嫌ですが。もう小野寺一家は一旦退場で若旦那とか天満一兆庵再建とか源斉先生とか野江ちゃんとか野江ちゃんとか野江ちゃんとかの話が読みたいです(今回野江ちゃんの出番がほとんどなくて少しいじけています)
最後に初めて澪の名前を呼ぶ小松原と、最後まで小松原の本当の名を呼ぶことがなかった澪。
切なくも美しい別れだったと思います。
その後の小松原のとった行動には特にファンではない私でもいい男だと認めずにはいられませんでした。家族に嫌われるということよりも、家族が失望し悲しむ姿を見ることのほうが辛かったはず。番付から外れたときの澪のように。それでもただ澪を守るためだけにあっさりとやるべきことをやり通す小松原に感動しました。
でも、一番泣けたのは早帆に真実を告げようとした澪を止めたときのご寮さんの言葉。
「もっと早うに気付いてやれたらよかった。堪忍だすで、澪」
この堪忍だすで、に涙涙。澪のことを実の娘以上に大切に思っているからこそ自然に出た言葉だと思います。なかなか言えないよ…。


それぞれが澪を想う気持ちが深くて優しくて。澪が強くなったのは、彼らとの出会いがあったからこそ。いつのまにか澪は江戸でもしっかりと根をはっていたのですね。種市と知り合う前、ご寮さんと二人きりだったときが嘘のようです。


相変わらずまとまりのない感想ですみません。また落ち着いたらちょこちょこ直すかもしれません。
よろしければまたコメント欄をご自由にお使いくださいね。お返事はコメント欄でさせていただきます。





高柴