残月〜みをつくし料理帖

高柴です


待ちに待ったこの本が出ました!!!

残月 みをつくし料理帖 (ハルキ文庫)

残月 みをつくし料理帖 (ハルキ文庫)

高田郁さんのみをつくし料理帖シリーズ最新作、「残月」の感想です。
今回も、ネタバレなしのざっくり感想→各話の簡単なあらすじ+感想(オチはあかさないけどネタバレ有り)→読み終えた人にしかわからないネタバレの塊(オチも書いちゃうよ)の順で書いていきます。ネタバレが嫌な方はくれぐれもご注意ください。


まずはざっくり感想から。
裏表紙に希望溢れるシリーズ第八弾とありました。みんなが前を向いてこの8巻は終わったのですが、溢れるというよりは希望が見えてきたというイメージかな?
今回はとにかく話の展開が早かったです。気になっていたことが一気に片付いたり。さくさく進んだので読んでいて気持ちがよかったです。シリーズって続くと中だるみというかグダグダしてしまうことが多いですが、みをつくしはここにきてスピードアップですね。さすがラストが決まっているというだけのことはあります。次巻がひたすら楽しみです。ちなみに次巻情報はまったくなし。この前の話を信じるとなにもなければ半年後かなとも思いますが、そんなに甘くないかな…。
巻末の特別収録はある人物が初登場。これまで名前だけしか出ていなかった人なので楽しかったです。みをつくし献立帖を読んだ人はニヤッとするかも。


では、以下各話の簡単なあらすじと感想。
残月――かのひとの面影膳
吉原の火事で又次を亡くして一月と少し経った。又次がいない三方よしの日。つる家に意外な客が訪れる。火事に巻き込まれ、あさひ太夫にかばわれて助かった翁屋の上客摂津屋が澪を訪ねてきたのだ。摂津屋は澪にあさひ太夫は無事だと伝え、あさひ太夫と澪の関係と又次が最期に澪に言った望みの意味を尋ねる。しかし、澪はどちらも自分が話していいことではない口を閉ざす。摂津屋がつる家から帰るところを見た清右衛門はどういうことだとつる家の面々を問い詰め、だいたの話を察すると今度は愉快だと笑って澪を困惑させる。
又次の初盆を来月に控え、店主の種市はみんなで悲しみをきちんと分かち合い、次に進めるような又次にふさわしい膳を澪に作ってほしいと頼む。まだみんな悲しみから立ち直れてはいなかったのだ。澪は又次の人柄をしのぶことができるような精進料理を考える。


清右衛門先生がここにきてさらに存在感up。いや、最初から強烈なキャラでしたが、話の本筋に深く関わってきそうです。まぁ本人が自分は周りではやし立てるのは好きだけど土俵の上には上がらないってハッキリ言っているのでこれからも澪を困惑させつつたまーに助言っぽいことを言ったりするぐらいかもしれませんが。しかし、清右衛門先生は良いキャラに育ちましたね。
と、清右衛門のことしか言っていませんが、この話は種市が良かったです。彼はつる家の大黒柱ですね。


彼岸まで――慰め海苔巻
久しぶりに翁屋の元新造で今は身請けされて幸せに暮らしているしのぶがつる家にやってくる。そこでのちょっとしたやり取りの中でしのぶが佐兵衛の行方についての手掛かりを知っているかもしれないことがわかり、芳は激しく動揺する。
翌日、あらためてしのぶに話を聞きにいった澪はしのぶから佐兵衛の近況を聞くことができた。しのぶは澪に彼岸までに佐兵衛を説得して芳に会いにいかせると約束する。
しかし、彼岸を指折り数えて待つ芳に届いたのは芳の気持ちを踏みにじる佐兵衛の手紙と彼が消えたというしのぶの知らせだった。
芳は落ち込むが、4年前に澪と嘉兵衛のたった3人で佐兵衛を探しまわったときとは違い、今は親身になってくれる人がたくさんいることに感謝して待つことを決める。
そんな気持ちが重い日々を過ごす澪たちに大雨が襲う。洪水で死者も多く出たと聞き、芳は佐兵衛の身を案じるが…。


一柳の柳吾さんがカッコイイ。若旦那…ずっと好きだったので、芳への手紙のくだりでは本当にガッカリしたのですが、まぁ彼にも彼の事情があったみたいですししょうがないですね。
太一ちゃんの絵の才能がますます磨かれているようでそこはほっこり。あと、これは全編通して言えることですがふきちゃんの成長っぷりがスゴイ。まだまだ子供だと思っていた二人のそれぞれの成長ぶりが眩しかったです。


みくじは吉――麗し鼈甲珠
澪は突然登竜楼の采女に呼び出される。采女の用件は澪の引き抜き。
澪はこれまでの数々の嫌がらせをなかったように振る舞う采女に呆れ、自分が欲しかったら4千両用意しろと啖呵を切る。
采女はそんな澪に4千両の価値があると納得させてみろと迫り、澪は采女を納得させる料理を考えることになる。
采女との約束の料理には卵を使うことは決めたが、肝心の料理が思い浮かばない。
思考錯誤を繰り返していたある日、澪は源斉に頼まれて翁屋の寮に同行することになる。すべての事情を知る源斉は澪と野江のために心を配った再会の機会を作ってくれていた。本当の意味での再会ではなかったが、二人は一瞬だけ同じ時間を過ごし、澪は改めて必ず野江を自分の手で取り戻すと固く誓う。
澪は野江の鼈甲の櫛と彼女との思い出の食材を用いて清右衛門が上機嫌のあまり朗笑するほどの料理を完成させる。それを食べた采女の反応とは。


野江ちゃんと源斉先生と料理を考える澪を深く愛する私にとっては非常に良いお話でした。もうこの物語のヒロインは野江ちゃん(ときどき芳)ですよね。澪がかっこよくヒロインを救う物語。友情なのにぐっとくるというかときめきます。今までかっこいいのは野江ちゃんの方でしたが、今は澪のほうがかっこいいかも。源斉先生は今回もとっても素敵でしたが、澪より男前になろうと思ったら大変だよ。先生頑張ってッ!!
登竜楼がますますイヤーな存在感を増してきましたね。清右衛門先生もすごい勢いで存在感を増していますが。清右衛門先生にはいったいどんな考えがあるんでしょうね。でも、決して夢見るほのぼの前向きタイプでない清右衛門先生が野江ちゃんの身請けを信じてくれているというのが意外であり、また無性にうれしくもありました。
うれしいといえば美緒の方も。彼女の、自分の美しさも夫の心の美しさにはかなわないという言葉に思わず涙が。いろいろあったけど、本当に幸せなんだなと。よかったと心から思いました。


寒中の麦――心ゆるす葛湯
芳にしつこくつきまとっていた柳吾の竹馬の友である房八がめでたく再婚することになったと坂村堂がつる家に知らせにくる。そして、澪に内々の祝いの宴に出す料理を頼みたいと言う。宴には未だに坂村堂と関係がこじれたままの彼の父柳吾も出席する。澪は父子の対話のきっかけになればと昆布を使った料理をひとつ入れることに決める。
宴の当日。澪の料理は柳吾も感心させ大成功だった。しかし、肝心の柳吾と坂村堂の話し合いはまったくうまくいかず、激怒した柳吾が倒れる騒ぎになる。
先日の清右衛門の妻の看病が細やかで行き届いていたことを聞いていた坂村堂は、妻を亡くして以来一人身の父を案じ芳に看病を依頼する。
源斉も感心するほどの芳の献身的な看病のかいあって、柳吾は無事に回復する。そして、澪と芳に礼を言いたいと二人を呼び出すが…。


結末も行動もまったく違うのに坂村堂と佐兵衛がぴったり重なって話の見事さに感動しました。葛湯のくだりにはハッとさせられましたし、もう感無量。
澪はこれからどうするつもりなのか、清右衛門先生の真意はなんなのか先がまったく読めぬまま次巻へ……。
ああ、次はいつ出るんだろう。


さぁ!ではネタバレの塊にいきます。こっから先は読んだ人のみどうぞ。






ご寮さん!!!本当によかったね!!この巻は彼女が主役でしたね!!
ずっとずっと心配してたことがスッキリして、それは彼女の望むカタチではなかったかもしれないけど、本当にうれしかったです。
最後の葛湯が。嘉兵衛さんの葛湯を思い出して、思わず「ああ…」って声が出てしまいました。なるほどなーそこに繋げるのかーって。素敵な演出でしたね。
しかし…。なんていうか、この巻は
   解   散
ってかんじの流れでしたね。心はぴったりひとつにまとまっているけれど、でもみんな前を向いて自分の道を歩き出したっていうイメージ。
澪がすんなり種市の話を受け入れてびっくりしました。彼女はずっとつる家で種市のそばにいるのだと思っていたので。
でもあと5年。5年でなんとかしなければ野江ちゃんを永遠に取り戻すことはできないんですよね。逆に言えば、野江ちゃんを取り戻せたらまたつる家に戻ってもいいわけですし。澪がそこまで野江ちゃんのことを第一に考えてくれていたというのがありがたかったです、野江ちゃんファンとしては。
源斉先生はどうしてあんなに思いやりがあるんだろう。そういう才能があるとしか思えませんね。澪の気持ちも野江ちゃんの気持ちも理解して、その上で医者として野江ちゃんの身体のために一番良いと思う判断もできる。なんていい男なの。
今回はどの料理もよく練ってありましたし、話の展開も面白かったです。
明らかに澪とあさひ太夫の話を盗み聞きしていたと思われる摂津屋さんのこれからの動き、種市を説得した清右衛門先生の考え、つる家からも天満一兆庵からも解放された澪がこれから進む道が気になる第8巻でした。






高柴