孤宿の人

高柴


宮部みゆきさんの「孤宿の人」を読みました。

孤宿の人(上) (新潮文庫)

孤宿の人(上) (新潮文庫)

号泣しました。途中何度もじんわり涙が滲んだのですが、もう最後はぼろぼろ泣きました。
これからこれを読む方にひとつ忠告しておくと、決して登場人物の誰にも心を寄せてはいけません。
ものすごい勢いでバタバタと亡くなってしまいます。いちいち衝撃を受けていたら最後まで読めません。
でも本当に驚くほど面白い。



軽くあらすじ
江戸の大店の若旦那と奉公人の女の娘として生まれた少女「ほう」は、「ほうの名前の意味は阿呆の呆」とさげすまれ、しつけや教育をうけることなく厄介者扱いされながら育っていたが、あるとき讃岐の丸海という土地にたった一人で置き去りにされる。
そんなほうを受け入れてくれたのは丸海藩の藩医を勤める井上家だった。ほうは確かに利発な子ではなかったが、嘘のない素直でまっすぐな少女であり、優しい井上家の人々は辛抱強くほうにさまざまなことを教えていく。
温かい井上家での生活に慣れたころ、ほうにいつもやさしく接してくれた井上家の娘琴江が毒殺される。ほうは井上家の下男とともにハッキリと犯人を目撃したが、なぜか琴江の死は病死ということにされ真実を口にしたほうは井上家を出される。
自分の目で見た真実と周りの大人たちの言葉の違いにほうは混乱するが、実はその裏には丸海藩の存亡にかかわる事情があった。
その事情を知ってしまった女性では珍しい「引手」(岡っ引きみたいなもの)見習いの宇佐はほうを引き取り、親身に世話をやく。ほうも宇佐を慕い、少しずつうまくいっていたがそんな日々は長く続かなかった。
そもそも丸海藩の存亡に関わる事情の発端は、江戸で恐ろしい罪を犯した幕府の元重臣の身柄を丸海藩で預かる役目を幕府から与えられたことにあった。本来なら切腹という罪だったが、さまざまな思惑が重なり流罪ということになったその元重臣は加賀殿と呼ばれ丁重に丸海藩が用意した屋敷に迎えられる。
加賀殿はその犯した罪の恐ろしさから鬼であると噂され丸海藩の人々はたたりを恐れていたが、実際に次々と凶事が起こる。
人々がおびえきっている中、宇佐はほうを加賀殿の幽閉されている屋敷に下女として差し出すようにと井上家から命じられる。ひそかに井上家の跡取り息子である啓一郎に想いを寄せていた宇佐は彼を困らせることができず断腸の思いでほうを奉公に出す。しかしほうを妹のように思っていた宇佐は自分がしたことを激しく後悔し、ずっとほうのことを案じる日が続く。
ほうは下女としてよく働いていたが、加賀殿が幽閉されている屋敷でも次々と悲劇が起こる。ほうは彼女を守ろうとする優しい人たちに何度も命を救われなんとか生き延びていたが、ある事件をきっかけに加賀殿と知り合い、彼の願いで彼女は加賀殿から手習いを習うことになった。
加賀殿を少しずつ理解し始めたほうはそのまっすぐな思いやりで加賀殿の気持ちをやわらげ、二人は静かで温かい時間を過ごす。
しかし丸海藩の中で起こっていた重く暗いたくらみは着々と進んでいた。藩を守る人々と藩を壊そうとする人々、真実を知りたいと願う人々と真実を封じ込めようとする人々。立場も想いも狙いもまったく異なる人々の静かな死闘は、やがて大きな事態に発展する。
多くの血が流され、多くの無垢な人々が死んだ。その犠牲は果たして本当に必要だったのか?勝利した陣営は何を得て何を失ったのか?




みたいな話。抽象的な説明で申し訳ないですが、致命的なネタバレは避けたいので。


ひとことで感想を言うと「圧倒的」


ち密に小さな出来事を丁寧に丁寧に積み上げることによって「圧倒的」な現実感が生まれ、登場人物とともに泣き、悲しみ、喜び、微笑むことになります。
「ほう」がまた愛おしいのです。不幸な生い立ちで苦しいことが次々に自分を襲うのに彼女は決して自分のことを哀れに思わない。かといって賢いわけでも強いわけでもない。ただその正直さ、素直さ、思いやりが読者の胸を打つのだと思います。


少しネタバレになりますが、ラストでほうが宇佐に言った言葉は、自分をずっと責めていた宇佐への作者の優しさなのだと思いました。ほうにしてはちょっといいセリフすぎましたから。でもその言葉が本当に良かった。


ものごとが「動く」というのはきっとこういうことなんだろうなと実感しました。小さなことが積み重なって大きな事態に発展していく、その説得力にうなります。


とにかく鳥肌もの。面白い!!おすすめです。





高柴