千年鬼

高柴です


西條奈加さんの「千年鬼」を読みました。

千年鬼 (徳間文庫)

千年鬼 (徳間文庫)

オススメしていただいて読んだので、かなり期待していたんですが面白かったです。期待が大きすぎるとガッカリすることもありますが、期待通りでした。


森の中で長いときを一人で過ごしている小鬼は、ある日一人の少女と出会う。そして初めてできた友達を大切に思うあまり、小鬼は大きな罪を犯す。自分のその罪のせいで、千年の間に生まれる少女の生まれ変わりたちがみんな恐ろしい人鬼となって災いを引き起こすことになると知った小鬼は、なんとかそれを止めたいと願う。
天上からその願いを許された小鬼は、小鬼に協力した黒鬼とともに千年のときをかけて少女の生まれ変わりたちに芽生える鬼の芽を摘み取る過酷な旅に出る。
少女の生まれ変わりたちは、それぞれ怒りや悲しみ、憤りなどを抱えて生きていた。小鬼は彼らの望む過去を見せて、その深い心の傷を癒すきっかけを与えていく。そうして千年近いときが過ぎ、最後に出会った少女の生まれ変わりはとても厳しい時代に生きていて……。



たった数日一緒に過ごしただけ。でもその数日はかけがえのないもので、小鬼にとって少女はたった一人のかけがえのない友達になった。
ここの説得力がすごい。小鬼という、シンプルで心優しい存在があってこそ成り立つお話だと思います。
鬼、という定義も面白い。人間が恐れる鬼は、もともと人だった「人鬼」で、本来の鬼には残酷さとか凶暴さみたいなものはない。さらに、人が鬼になるのは人が勝手に作り上げた道徳観とか善悪の境界線を破ったことが原因で、つまり人間は勝手に自分たちを善悪で縛り付けて、勝手にそれを破って鬼になるという不思議な生き物だと。
なるほどなーと思います。こういう、丁寧に考えられた世界観は安定感があって好きです。作者は丁寧に考えて作品を作り上げていく人なんだな、ととても好感が持てます。
ラストがまたいいですね。この一風変わった、練り上げられた作品にふさわしいラストだったと思います。