遠縁の女

高柴です


青山文平さんの「遠縁の女」を読みました。

遠縁の女 (文春e-book)

遠縁の女 (文春e-book)

表題作「遠縁の女」の他「機織る武家」と「沼尻新田」の2編があり、短編集となっています。
青山さんらしく、人の心の動きを丁寧に追った作品です。


「機織る武家」は、わずか二十俵二人扶持の武井家に嫁入りした縫(ぬい)の物語。夫の由人は婿養子で武井家に入ったが、家付き娘の妻は出産で子供と共に亡くなり、肩身の狭い中で縫を嫁に迎えた。自分の居場所を確保するのに必死な由人に縫を思いやる余裕はなく、プライドの高い姑と中身が空っぽの夫との生活に耐える日々。夫はよく仕事でしくじることがあったが、ある日とうとう家禄を十俵にまで減らされる。一時は家を出て飯盛女になるしかないと覚悟を決めた縫だが、嫁入り前にしていた機織りで内職をすることになると一気にその才を開花させていく。しかし、縫には自分の名前が有名になることを恐れる理由があって……。


縫の心にずっと引っかかっていたある過去の出来事とようやく向き合うことができたとき、思いもよらぬ真実が現れる。一生懸命頑張る縫の姿が好ましく、どんな状況に置かれても冷静でどこか飄々としているところがよかったですし、縫の目を通して見る姑や夫も面白かったです。


「沼尻新田」は、知行取り五十四家のみに許可が下りた新田開発をめぐる物語。父から家督を譲られた柴山和巳は最初その新田開発には慎重だったが、実際にその土地に出向いてから考えを変える。表向きは、一族のため。しかし、和巳の本心はそこで出会ったある女性を守りたいというものだった。
和巳が出会った女性は、野方衆という昔藩から切り捨てられた人々だった。野方衆に対して労りの気持ちを持つ和巳は、たった一度言葉を交わしただけの娘と彼女の一族を守るために力を尽くす。


和巳が大変カッコイイです。冷静で周囲のことがちゃんと見えていて、それでたった一度会った女性に恋をして彼女のために自分ができることをやる。誰にも悟られずにやり通す和巳の姿にカッコイイと思わずにはいられません。隠居した父親もいい味出してます。


「遠縁の女」は、好きな剣術はイマイチ結果が出ず、あまり好きではない学問ではその力を周りに認められている青年隆明の物語。
自分の剣の力に限界を感じ始めた隆明は、突然父親から武者修行に出るようにと言われて驚く。時代は寛政の御代。すでに剣に重きをおく時代は過ぎ去っている。だが父に説得された隆明は、五年という長い修行に旅立った。
五年後、あと一歩で自分が納得できる結果を出せるというところで故郷から父が亡くなったという知らせを受け取る。慌てて戻った隆明は、五年前とはあまりに違う状況に驚く。彼が一目置いていた友人誠二郎は藩の改革の失敗の責任をとって切腹しており、その誠二郎の妻で隆明の遠縁でもあった信江は隣国にいるという。信江が気になる隆明は、会うのは一度だけと叔父に釘を刺されて彼女に会いに行く。だが、信江に「あれだけは赦せない」と責められた隆明は、心当たりのない「あれ」を知るために危険を承知で信江のもとへ通う。そうしてやっと信江の口から真実を聞かされた隆明は、ある決断を下す。


表題作だけあって、読みごたえがありました。信江、隆明、彼の父親と叔父、誠二郎の思惑や抱える事情が絡み合ってどうしようもない状況に追い込まれていく。読者に委ねる結末も含めて好きなお話です。



青山作品でひとつだけ気になるのは、読点の打ち方です。なんかやたら多い気がするのは私だけでしょうか。ないと読みにくいですが、多すぎてもスラスラ読みにくいような……。これも含めて作風だと言われると、そんなものかなとも思うんですけどね。