約定

高柴です


青山文平さんの「約定」を読みました。

約定

約定

面白かったです。
短編集で、主人公の立場や身分はバラバラですが武家の人間ということは共通しています。それぞれちょこっとあらすじと感想。
「三筋界隈」
閑古鳥が鳴く道場をなんとか守ろうと奮闘する浪人が、行き倒れの老いた侍を介抱する。今にもこの世から消えそうなその貧相な侍の意外な礼とは?
今回の短編集ではよく刀について語っていたような印象です。このお話も、行き倒れの侍が持っていた素晴らしい刀が物語を導いていました。
「半席」
徒目付として真面目に仕事に励む直人のもとへ持ち込まれたひとつの事件。高齢にも関わらず、誰にも跡目を継がせずにお役目を続けていた老人が釣りをしていて水死した事件で、目撃者によると自分で水に落ちたとのことだったが……。
直人の家の「半席」という微妙な立場が彼の性格に説得力を持たせていて興味深かったです。そういう制度を初めて知りました。青山さんは旗本がお好きですね。
「春山入り」
今は立場がバラバラの幼馴染3人。そのうちの一人である大輔は、今や藩の中心人物になっている直次郎に頼まれ、藩主が招いた学者の警護を引き受ける。だが、その任務でもう一人の幼馴染哲平と剣を合わせることになるかもしれず……。
珍しく、主人公の大輔がうっとうしい男。途中までちょっとイライラしながら読んでいたんですが、ラストでやられた!!ラストがすごくいい作品です。
「乳房」
田舎の名主の娘、那珂は武家を目指す叔父の清蔵のために生きてきた。親からも疎まれていた自分を必要としてくれた叔父の役に立つことが夢だった。だが、叔父の一人息子が亡くなったことで叔父と那珂の夢は終わる。那珂は叔父が勧める縁談を受け、窮屈な思いをしながら毎日を過ごすことになるのだが……。
好きな話です。ラストにほのぼの。百姓から武家にっていうのは、わりとなれるもんだったんですね。優秀な人材であれば。那珂はこれから幸せになれるんだろうなと思うとうれしくなりました。
「約定」
切腹した父の敵を討つためだけに生きてきた清志郎は、とうとうその日を迎える。相手と確かに約束した日だ。だが相手は現れず、清志郎は最も恐れていたことが現実になったことを悟る。
読み終わったあと、ええええええええってなります。いいの?こういうのアリなの??みたいな。動揺が抑えられない。そういうお話。
「夏の日」
書院番士として出仕し始めた雅之は、ひどいいじめにあって家を出られなくなってしまう。事態を重く見た父の判断で休みをとり、父の名代として知行地へ行くがそこである村人が殺される事件が起こり……。
雅之の心の動きがよかったです。最初から腹が据わっている人なんていなくて、もがきながら成長するものなんじゃないかと思いました。


どの主人公も完璧じゃなくて弱くてみじめなところもあったりして、でも前へ進んでいく姿がよかったと思います。