あい 永遠に在り

高柴です


高田郁さんの「あい 永遠に在り」を読みました。
予想以上に面白かったです。高田さんの歴史小説って想像できないと思っていたのですが、安定感があってよかったと思います。
関寛斎の妻「あい」の物語なんですが、実はこの女性に関する資料はほとんど残っていないそうです。ですからおそらくほとんど高田さんの想像だと思うのですが、でしゃばらず、でもきちんと物語の中心にいる女性という書き方はとても好みでした。あいは日本人女性としてこうありたいというまるでお手本みたいな人でした。おそらく高田さんもそう思われて執筆されたのではないでしょうか。
軽くあらすじ



貧しい村の百姓の娘として生まれたあいは、美しい娘に成長し伯父の養子、つまり血がつながっていない従兄である関寛斎に嫁ぐ。寛斎は血のにじむような努力を重ねて蘭方医学を学び、妻あいを伴い銚子で開業医としての新しい生活を始める。
二人は銚子でヤマサ醤油の当主である濱口梧陵と出会い、親交を深める。寛斎の人柄を気に入った梧陵はなにかと寛斎を援助し、ついには寛斎に長崎で学ぶ機会を与える。そんななか、寛斎に阿波徳島藩主の侍医にならないかという声がかかり、悩んだ末その話を受ける。梧陵への恩を返せていないことをうしろめたく思う夫妻を梧陵は気持ちよく送りだす。
寛斎が侍医の話を受けたのは、出世のためではなかった。常に人のためにという医学を志したときの気持ちを忘れぬ寛斎の人柄は、藩主に愛される。
時代は徳川幕府から明治政府へ移ろうとしていた。藩医である寛斎は戊辰戦争に赴く藩主に同行。軍医として新政府に絶賛される働きをする。しかし、富や名声などにまったく興味のない寛斎は政府から提示された栄達の道をすべて捨ててしまう。そして徳島で町医者として暮らし、町の人々から深い信頼と支持を得る。
ときがすぎ、寛斎とあいが祝言をあげて50年が経った。二人は子供たちの反対を押し切り、北海道へ渡ることを決める。過酷な開拓に挑もうというのだ。平和で幸せな日々を捨て、私財をすべてつぎ込んで二人は厳しい自然との闘いを選んだ。
「世の中の役に立ちたい」
二人が永久に在りたいと願った人の本分とは。


ざっと言うとそんな話。
あいから見た寛斎がかっこよすぎて…。
今、私たちは当たり前のように豊かな生活をおくっていますが、つい100年ほど前にこうやって歯を食いしばって働いていた日本人がたくさんいたんだなと思うとご先祖様に足を向けて寝られませんね。私たちは100年後の子孫たちのために彼らほど一生懸命生きているだろうかと省みずにはいられません。
高田さんのあいへの眼差しが柔らかく、あいの寛斎への眼差しもやはり温かい。この「あい」は高田さんだからこそ書けたのではないかと思いました。あと、みをつくしの高田さんらしく食べ物がやたらおいしそうでそこにほっこりしました。
今回もみをつくしシリーズと同様、鳥と空がよく出てきました。高田さんは印象的なシーンで鳥や空を多く使うイメージです。きっとお好きなのでしょうね。作品の清々しい雰囲気に合っています。
そんなわけで、なかなか面白かったと思います。高田さんファンの方は図書館で探してみてもいいかもしれませんね。今回は単行本ですし。



高柴