ホイッスル

高柴です


藤岡陽子さんの「ホイッスル」を読みました。

ホイッスル

ホイッスル

普段の私なら絶対に読まない話。今回はたまたま面白かったからと言われ、借りて読みました。
3分の2くらいまでは胸の悪くなるような話だな、と、失礼ながらそう思って読んでいました。ラストは一気に読めて、面白かったです。
あらすじは、
65歳の聡子は、ある日突然長年連れ添った夫の章が家を出ていってしまい、途方に暮れる。しかも章はいつのまにか勝手に家を売却。財産はなにひとつ残さず姿を消したため、聡子はわずかな自分の貯金だけを持って家を追い出される。
呆然としながらも、すでに嫁いでいる娘の香織と姪の優子に支えられ、聡子はなんとか新しい生活をスタートさせる。
章はある女性と浮気をしていて、その女性と暮らすために家を出ていったことがわかる。聡子は、その浮気相手の女性沼田和恵を相手に裁判をおこす。
裁判は長く辛いものだったが、娘や姪、そして親身に支えてくれる弁護士にめぐりあえたことで、聡子は前向きに乗り越えていく。そして仕事を見つけ、真剣に働きながら自分の人生を見つめ直していく。
一方、聡子に訴えられた看護師の和恵は怒り狂う。和恵は章からお金を援助してもらうために付き合っていたのであって、彼に愛情などなかった。しかし、章が自宅を売却したことを知り、さらにまとまったお金を彼から引きだそうと画策して章との関係を続けようとする。
和恵との恋に狂った章、夫や子供とうまくいかず見栄とお金に執着する和恵、そしてそれまで信じてきたものすべてを奪われた聡子。
それぞれどん底にいる3人はまったく異なった行動をとる。
正直に真面目に不器用に生きることの馬鹿らしさと尊さ、それらすべてを知った聡子は言う。
私、本当に幸せを感じています、と。



善人と悪人がすがすがしいほどハッキリしているのが意外でした。もっとぼんやりさせるのかと思っていたので。あまりぼんやりした話は好きではないので、そこは好みでした。
優子の母親が亡くなったときの話が一番泣けたかな。聡子という女性の聡明さ、温かさ、そしてそれを理解し敬意を持つ優子の父親と優子の父娘に救われた気分でした。
ラストに向けて和恵は破滅へと突っ走っていくのですが、そこはやはりスカッとしました。
でも、読み終わった今、和恵のことを気の毒な人だなと思います。「悪さ」という点では、和恵の夫や和恵の友人のレミのほうがよっぽど「ワル」です。ただ、彼らはワルのプロなのでカモを間違えないずる賢さがあるんですよね。和恵はなんだかんだ真面目に生きてきて、突然タガが外れたかんじ。だから、カモにして大丈夫な相手はどんな人か、敵に回してやっかいなのはどんなタイプなのかがわかっていなかったのだと思います。ワルの素人ですね。和恵とある意味対照的なのは章かな。彼女同様、それまで真面目に生きてきてとつぜん壊れて暴走したタイプですが、自分のことをこれっぽっちも悪いと認識できていないところが病的というか、怖い。こういう人にだけは関わりたくないですね。登場人物の中で私が唯一憎しみを感じた人です。
一番好きなのは芳川弁護士の告白シーン。癒されました。
本筋に全然関係ないけど、一番気になったのは37ページの香織のセリフ。
和恵が病院に勤めていることを優子が確かめて、聡子が寒気を訴えるシーン。
「お母さん熱でもあるんじゃない? 九月に寒いなんて」
…これ、七月じゃない?
私はここで「ん?」と思って、わりと本気でなんかのトリックなのかと考えていました。ミステリをよく読むのでそういう思考になりがちです。
でもそんなことはなかったので、ただのミスだと思われます。
読んでいると人間ってイヤだなぁとか、うわぁ、結婚なんかしたくないとか、とにかく憂鬱になりますが、それでも最後まで読むと人間の気高さみたいなものも伝わってきて、とにかく自分は真面目に生きようと思えます。そんなお話でした。
和恵が40歳代で聡子は60歳代、だからその間くらいの女性にオススメかな?




高柴