闇の伴走者

高柴です


長崎尚志さんの「闇の伴走者」を読みました。

闇の伴走者―醍醐真司の猟奇事件ファイル

闇の伴走者―醍醐真司の猟奇事件ファイル

作者は漫画編集者、漫画原作者として非常に有名な方です。
この小説の感想ですが、うーん。漫画ファンとしては、満足でした。漫画の世界の第一線で長く活躍された作者にしか書けない蘊蓄も楽しかったですし。ただ、これをミステリとして読むとどうかなぁ?決してつまらなくはないし、十分面白いんですが、ちょっと物足りないというか、驚きがなかったですね。ミステリの優等生みたいなイメージ。きっちり伏線張って、きっちり展開して、きっちりまとめました、みたいな。妙に安心感のあるミステリでした。私は小さな伏線が思わぬ方向へ転がったり、大化けしたりする展開が好みなので、安定感のあるというよりは安心感のある展開にあまりドキドキはできませんでした。好みの問題だと思うんですけどね。


簡単にあらすじ
出版関係専門の調査会社の調査員、水野優希は、ある有名漫画家の未亡人から仕事を依頼される。
亡き有名漫画家の画稿管理室から、見覚えのない画稿が見つかった。それは、「漫画家」と名乗る登場人物が若い女性を誘拐・監禁し、殺害するというストーリーで、描かれたその女性は35年前に起こった連続女性失踪事件で失踪した女性の一人に酷似していた。未亡人は、夫がこの事件の犯人だったのかもしれないと懸念し、優希に真相を確かめるよう指示する。
優希は協力者として紹介された元漫画編集者の醍醐のもとを訪れる。醍醐は外見は醜く性格も決して良くはないが、漫画に対する造詣が深くすぐにその画稿は有名漫画家の描いたものでないことを見抜く。そしてその画稿に興味を持った醍醐は、誰が描いたのかを優希とともに調べることになる。
二人はさまざまな関係者と会い、少しずつ真相に近づいていくが、優希の身に危険が迫る。
35年前に一度終わったはずの事件はまだ続いているのか?「漫画家」の正体とは?


作者が醍醐をできるだけカッコ悪く書こうと苦労されているような気がしました。ご自身が漫画編集者なので、分身の醍醐をカッコ良く書くことに抵抗があったのでしょうか。しかしそれでも醍醐の才能と教養と頭の良さは抜群で、やはりこの作品は「漫画編集者醍醐の物語」なんだなと思います。長崎さんの幅広い興味と教養、漫画への深い敬意と信念が伝わってきて、特にラストは素直に感動しました。小説家としても誠実な方だと感じました。


そんなわけで、漫画に興味のある方にはオススメですが、漫画なんぞ大っ嫌いでひたすらミステリを読み漁ってますという方にはオススメできません。まー、そんな頭の固いミステリマニアもあまりいらっしゃらないと思いますが。



高柴