風渡る

高柴です


葉室麟さんの「風渡る」を読みました。

風渡る (講談社文庫)

風渡る (講談社文庫)

ちょっとガッカリしました。葉室さんの作品に対してではなく、裏表紙の紹介文詐欺に対してです。


“「神の罰より、主君の罰を恐れよ、主君の罰より、臣下、百姓の罰を恐るべし」。戦国の世で、神の愛のため誓った黒田官兵衛。土牢の幽閉から逃れ信長への謀反に暗躍、秀吉の懐刀となり勇名轟かせた策士でもあった。「民を貴しとなす」とした稀代の名将の真の姿が、新直木賞作家による渾身の筆で現代に甦る。”


というのが、裏表紙の紹介文。
他の方がこれを読んでどう思われるか知りませんが、私はこの紹介文を読んで、黒田官兵衛の話なんだと思いました。
まったく違いました。
こんな紹介文をどういうつもりで書いたのか知りたいです。
葉室さんの官兵衛が読める!
とドキドキわくわくした乙女ゴコロを返していただきたい(本物の乙女はそんなあつかましいことは言いません)


実際のストーリーは、
戦国時代に周防のキリシタン武士の子として生まれた修道士ジョアンが見た戦国時代の宣教師とキリシタンたち。あの人もこの人も実はキリシタン!あ、黒田官兵衛もいるよ。


って感じですかね。そういや官兵衛どこ行った?と思ったころに登場してまたすぐ消えてしまいます。そりゃ、出番は多いですが一応こちらは官兵衛の話だと思って読んでいるので違和感ありまくり。主役はジョアンとキリシタン(官兵衛含む)くらいのレベル。
それならそれでいいんです。裏表紙に官兵衛の物語みたいに書いていなければ私だって納得しました。関ケ原のときの官兵衛の動きを楽しみにしていたら話は関ケ原までに終わっちゃうし。そんな官兵衛ってアリなの?
はっきりこれはキリシタンの物語ですと書いてあれば許せたしそもそも買わないという選択もできました。こういう読者を騙すような仕打ちにイラッとします。


そんなわけで、話そのものを公平に見るのは難しいのですが、戦国時代のキリシタンに興味のある方は一読の価値ありだと思います。架空の人物ジョアンの出生の秘密もなかなか面白かったです。
ただ、葉室さんの特徴ともいえる、登場人物の多さに今回も苦労しました。誰が誰だか途中からかなり混乱してきて何度もページを戻って確認する必要がありました。


面白かったのか面白くなかったのか、それさえイライラのせいで判断できません。本当に悲しいし何よりもったいないです。葉室さんも官兵衛も大好きなのに。たまに裏表紙のあらすじや帯のキャッチコピーで大嘘ついたり解説で余韻をぶち壊したりして作者の足を引っ張るパターンを見かけますが、読者としては非常に残念です。
そういえば「風渡る」の帯には
“神の罰か、主君の罰か。畏れ信じるべきはどちらか――”
とありました。
……いや、だから
“臣下、百姓の罰を恐るべし”
なんじゃないの?もうホント意味不明。
誠実な場合がほとんどなのに、ごくたまにこういうことがあるから本屋さんで選ぶときに必要以上に慎重になってしまうんですよね。



高柴