毒笑小説

高柴です


東野圭吾さんの「毒笑小説」を読みました。

毒笑小説 (集英社文庫)

毒笑小説 (集英社文庫)

全部面白かったです。
特に笑ったのは「手作りマダム」と「マニュアル警察」で、楽しかったのは「殺意取扱説明書」と「誘拐電話網」
一番のお気に入りは「つぐない」
私のオススメの5作品のあらすじをちょっとずつ。





「手作りマダム」
静子の夫の上司の奥さんは手作りが大好きだが、そのできばえはいつも散々。静子はそんな手作り作品を毎回押しつけられてうんざりしていた。ある日、また何かを作ったからと言われて他の奥さんたちと上司夫人を訪ねるが…。


上司夫人の作るものの凄まじいこと。不幸にも「あらゆるものを」手作りしてしまう、というのが話のポイントでした。ちょっとスッキリするラストです(笑)



「マニュアル警察」
妻を殺してしまった夫。とりあえず自首しようと警察署へやってくるが、すべてが「マニュアル化」されたその警察署では自首さえスムーズにはいかず…。


自首したいだけなのに、馬鹿みたいに遠回りさせられる夫がコミカルに描かれていて笑わずにはいられません。ラストはまさに「毒笑」にふさわしいですね。



「殺意取扱説明書」
友人に恋人を奪われた女性が、たまたま手に入れた「殺意取扱説明書」に従って友人を殺そうとするが…。


女性の説明書を読むときの思考回路が、自分が説明書を読むときとまったく同じ!なんで理系男子の東野さんがここまでリアルに書けるんだろう?途中から面倒になって読み飛ばすところとか、多くの女性に身に覚えがあるはず。ラストもクスッと笑わせてくれました。



「誘拐電話網」
カワシマのもとに子供を誘拐したから身代金を払えという電話がかかってくる。しかしその子供はまったく知らない赤の他人。犯人は子供の親を直接脅すのは気が咎めたので、関係のない人間を脅すことにしたと言う。カワシマは要求を突っぱねたが、やはり自分のせいで子供が殺されるのは気分が悪い。そこでカワシマはその「責任」を誰かに押しつけることを思いつくが…。


タイトル通りのお話。自分が子供の命の責任を持つのは嫌だけど、身代金を払うなんてとんでもない。よし、誰かに押しつけろ!という発想が絶妙。
このシリーズ中何度も使われた「加速しながらエスカレート」する展開でコミカルな中にもスピード感があって楽しかったです。



「つぐない」
ピアノ講師の実穂は、新しい生徒の家へ出向く。てっきりその家の一人娘が生徒かと思っていたが、なんとレッスンを希望しているのは50歳の父親の方だった。実穂は驚くがその父親栗林は熱心で、不器用ながらも少しずつ上達していく。
レッスン開始から約3ヵ月目、実穂は栗林に発表会に出たいと言われ仰天する。発表会は実穂の先生が主催する内輪の小さなものだったが、栗林はどうしても出たいと土下座までして頼んでくる。実穂は事情を尋ねるが、そのときは栗林はただ
「ある男への償い」
としか語らなかった。
栗林の熱意は実を結び、無事に発表会を迎える。そして実穂はそこで初めて栗林の言葉の意味を知る。


切なくて良い話でした。普通のオジサンの栗林がいじらしくて最後はちょっと泣けました。



本当に12話全部面白かったです。「毒笑」というタイトル通り、ブラックな笑いが多いのですが、読後はスッキリ。どれも終わらせ方がよかったと思います。結末を読者の想像に任せる形が多かったかな。テーマが「笑い」なので、冗長さが一番の敵なんですね。その辺りのさじ加減が絶妙でした。



高柴