風の市兵衛

高柴です



辻堂魁さんの「風の市兵衛」を読みました。

風の市兵衛 (祥伝社文庫)

風の市兵衛 (祥伝社文庫)

辻堂さんの作品を読むのは初めて。
文章は語彙が豊富で表現も豊かでした。しかし、なんかこう、私は慣れませんでした。
うーん。どう言えばいいのか難しいですが、例えば主人公が敵の一人のところへ乗り込んで、敵に「破願」するシーンがあります。まぁそもそも「破顔」じゃないかと思うんですが、破顔というぱっと顔がほころぶイメージと、その場面が馴染まない気がしてなんかしっくりきませんでした。にっこり、とかにこり、という表現ならわかるんですが。そういうおかしくはないんだけど、個人的にしっくりこない表現にたまに引っ掛かりました。そもそも私は文章はシンプルなほうが好みなので、点が辛くなっているのは否定できませんが。
肝心のストーリーは、面白かったと思います。
主人公は剣の遣い手で優しく頭もよく、爽やか。時代劇で見たいですね。


簡単にあらすじ
主人公市兵衛は武士だが、現在は旗本などの家の用人(出納係)をして暮らしをたてている。剣の達人だが、それをひけらかすことはせず、控えめで用人としての腕も確かである。
今回新しく市兵衛が雇われた高松家は、つい最近当主が女性と心中したワケありの家だった。市兵衛は心中事件に興味をしめすような軽はずみなことはしなかったが、心中した当主に謎の借金があることが判明し事態は変わる。家計のやりくりのためにも、借金のことをはっきりさせたい市兵衛は心中事件の真相に迫っていくことになる。
心中は町方の同心と幕府の目付も動くある大きな企みと繋がっていた。同じ事件を追う者同士、自然に巡り合う3者。その中で明かされる市兵衛の過去とは?裏で暗躍する大店の薬屋の目的とは?


みたいな話。


登場人物たちはややありきたりではありますが安定感がありました。ただ、悪役側の3人の美女たちには苦笑い。彼女たちの存在はファンタジーすぎた気がします。あと、悪役側の親玉が突然自分の哀しみとかを語りだしたのもちょっとうーん。時代劇路線なんだから高笑いのひとつでもして悪役を全うしてほしかったな。
抜け荷や阿片という派手な事件を無理なく扱っていたのはよかったです。旗本の心中が思わぬ事件に繋がっていた、という流れも面白かったです。
話はとても面白かったので時代小説ファンは一度読んでみても損はないと思います。




高柴