マウントドレイゴ卿/パーティの前に

高柴です


サマセット・モームの短編集を読みました。
光文社が去年出した新訳です。
題は「マウントドレイゴ卿/パーティの前に」で、表題2つの他に「ジェイン」「幸せな二人」「雨」「掘り出し物」が入っています。訳者の木村氏の解説によると、「ミステリ」をキーワードに6編を選んだとのこと。

マウントドレイゴ卿/パーティの前に (光文社古典新訳文庫)

マウントドレイゴ卿/パーティの前に (光文社古典新訳文庫)

「雨」は別の短編集で読んだことがあったのですが、あとは初めて。
この中で一番心に残ったのは「パーティの前に」
あらすじは
近所の家のパーティに招待された一家。それぞれが支度を終えて階下の部屋に集まってくる。
一見普通の家族だが、8ヶ月前に南方駐在員だった長女の夫が亡くなったばかりで、一家は喪中だった。
家族の前で、夫を亡くした長女に次女が問いかける。
“どうして義兄さんが熱病で死んだなんて言ったの?”
と。
義兄は自殺したと友人から聞いたと姉に詰め寄る妹。
どういうことだ、なぜ嘘をついたと混乱する家族に長女は冷たい笑みを浮かべる。
“本当のこと言っても、あんまり喜んでもらえないと思う”
そうして語られた亡き夫との結婚生活とその死の真相。
それは衝撃的なものだった。重い秘密を抱え込むことになった家族は長女を責める。しかし長女は静かな声で言う。
“すぐに慣れるから”
と。


めちゃくちゃ怖い。長女も当然怖いけど、自分たちのことばっかり考えて長女の夫のことを悼まない家族も怖い。
自分のことしか考えていない、人間の自分勝手さの怖さを扱った作品が多かったように思います。モームはこういうの好きですね。皮肉っぽい。
でもなんかイヤな気分にはならないんですよねぇ。不思議。
どれもミステリっぽいドキドキが楽しめて面白かったです。



高柴