アイアン・ハウス

高柴です


ジョン・ハートの「アイアン・ハウス」を読みました。

アイアン・ハウス (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

アイアン・ハウス (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

面白かったです。かなり話を大きく広げるんですが、ラストでちゃんとまとまったのがスゴイ。
ヒロインのエレナは主人公マイケルの恋人の女性でいい人なんですが、途中からめちゃくちゃカッコイイ47歳の奥様アビゲイルが鮮やかにヒロインの座を奪うところが爽快でした(笑)
冗談はさておき、軽くあらすじを。気をつけますが、ネタバレがあるかもしれないのでご注意。



マイケルとジュリアンの兄弟は赤ん坊のころから孤児院アイアン・ハウスでともに育った。
身体が丈夫で喧嘩も性格も強い兄マイケルと身体も気も弱いジュリアン。二人はかけがえのない家族であり、お互いに深い愛情で結ばれていたが、ある日マイケルは孤児院から一人で出奔する。その日はちょうど大金持ちの上院議員夫人アビゲイルが彼ら兄弟を引き取ろうと孤児院を訪れた日であり、アビゲイルはマイケルを救えなかったことを悔いる。
マイケルは大都市ニューヨークの裏の世界で有名なギャングオットー・ケイトリンに拾われ、彼から愛情を注がれながらもプロの殺し屋として育つ。
33歳になったマイケルは、何も知らない恋人エレナとまっとうに生きていきたいと望むようになり、オットーに組織を抜けたいと頼み彼からは了承される。しかしそれを許さないオットーの息子とマイケルの師匠であり冷酷な腕の立つ殺し屋ジミーは執拗にマイケルに圧力をかける。
オットーは末期がんに苦しんでおり、死期は近い。オットーが死ねば、息子とジミーはマイケルを堂々と殺そうとするだろうということは目に見えており、マイケルは決断を迫られる。
マイケルの決断の結果、恋人エレナは命を狙われる。そして次は弟ジュリアンを殺すと脅されたマイケルは、23年ぶりに弟のもとへ駆けつける。しかし上院議員の養子となり、その優れた才能を生かして世界的にも有名な児童作家になっていたジュリアンは正常な精神状態を保っていなかった。心から敬愛する兄に会ったことで一瞬正気を取り戻したジュリアンが伝えた言葉が気にかかるマイケルは1日だけ上院議員の邸宅のゲストハウスで過ごすことにする。しかしその夜、マイケルは孤児院時代にジュリアンを酷くいじめていたメンバーの一人が敷地内のボートハウスで死んでいるのを発見。さらに翌日、警察がやってきて遺体を見つけてしまう。
警察はジュリアンを疑うが、弟を守りたいマイケルと息子を守りたいアビゲイルはなんとかしようと手を尽くす。
マイケルは真相を知るために殺された男の家を訪ね、彼の恋人の話から孤児院アイアン・ハウスの元経営者フリントが今回の事件に繋がっていると確信。彼を見つけ出して話を聞く。
殺された男の家には大金と5人の人物の名前が書かれた紙きれがあった。マイケルはそこに書かれた名前とフリントの話から真相を掴もうとするが、謎はより複雑化する。
一方、マイケルを始末したいジミーは罠を張ってマイケルを待ちかまえていた。
マイケルはジミーたちギャングの追手を逃れ、ジュリアンを守り、真相を解明できるのか…?


みたいな話でした。
マイケルがすっごくカッコイイ!!映画のヒーローみたいに理想的な男性でした。強くて優しい人。しかも大金持ち。
まとめかたが綺麗で、爽快感がありました。謎が謎を呼ぶ展開なので疾走感と緊張感があり、ミステリ好きなら楽しい時間を過ごせる作品だと思います。

以下、ネタバレというか犯人言っちゃうけど、どうしても謎なこと。ご注意。








ロニーの家にあった紙きれに書かれた名前がどうしてもよくわからない。
3人の元悪ガキとアビゲイルはいいとして、どうしてサリーナ・スローターの名前が書いてあったのか?
今回の関係者でサリーナ・スローターの存在を知っているのは、アビゲイル本人とジェサップだけのはず。なぜサリーナの名前があったのかがよくわかりませんでした。そそっかしいので読み飛ばしちゃったのかな?
アビゲイル上院議員夫人という立場を考慮して偽名を使おうと考え、とっさにサリーナ・スローターの名前を出した、というならサリーナの名前があってもおかしくないんですがその場合アビゲイルの名前があるのがおかしいということになります。
アレ?なんか私読み違えてる?解釈を間違えてるんでしょうか、不安になってきました。しかし今すぐ読み返すのはちょっとしんどいなァ。
アビゲイルはサリーナの存在をちゃんとわかってて、自由にサリーナになれるからついロニーに自分の存在を示したいサリーナがわざと名前を出したっていうオチだったらいろんな意味で怖いですね。まさかそういうことなの??
あと、もっと細かいんですが冒頭でマイケルとエレナが幸せな朝を過ごすシーンがありますよね。
そこで“きのう、彼女は彼に妊娠を告げたのだった”
ってあるんですが、公式のあらすじにはどれも
“マイケルはエレナの妊娠を機に〜”
ってなってます。つまり組織を抜けたいと思った8日前にはマイケルはエレナの妊娠を知ってたってこと?告げられる前に?
いくらスーパーマンのマイケルでもそこまでわかってたら逆にコワイ。
ささいなことだけど、大きな違いだと思うんです。エレナ一人のために抜けたいと思うのとエレナと子供のために抜けたいと思うのは。エレナ一人なら、なんの義務もなく本当に恋人を想う気持ちだけですけど、子供がいるなら少しは義務もあるじゃないですか。
読んでる限りはマイケルが知ったのは“きのう”でいいんじゃないかなと思いますが。


そんなわけで、スッキリ手放しでコレ凄いよ!とは言えないんですが、伏線の回収は鮮やかですし、ずっと緊張感がありますし、なにより最後のまとめかたが強引すぎるけど妙に説得力があって面白かったし、十分満足できました。オススメ。




高柴