私闘なり、敵討ちにあらず〜八州廻り桑山十兵衛シリーズ

高柴です



佐藤雅美さんの「私闘なり、敵討ちにあらず」の感想です。八州廻り桑山十兵衛シリーズ

佐藤雅美さんが好きで好きで。
時代考証がしっかりしているということで有名な方です。私はあまり時代考証に深いこだわりとかはないのですが、やはりしっかりしている作家さんの方が安心感というか安定感があるように思います。
ちょっと時代考証が…という作家さんの場合、読んでいて音程にハラハラするアイドルの歌を聞いているような気持ちになります。そわそわ気恥ずかしい気持ちになるあのかんじ。
私が時代考証に詳しいからそう思うのではなく、作者の不安が伝わってくるのでそう感じるのです。
佐藤さんは、
「とことん調べつくしていると時代小説の中では平気でウソが書けるんです」
と、ある対談で語っておられるだけあって、作品には読者に不安を感じさせるような空気は一切ありません。安心して佐藤さんが作りだす江戸時代の世界に入っていけます。
江戸時代に対してああそうなってたのかと納得でき、目から鱗が落ちる、そんな感覚によく陥ります。読めば読むほどじんわり面白い。そんな作家さんです。大好き。


今回の「私闘なり、敵討ちにあらず」も、期待通りの面白さでした。
最近のパターン通り、全編通してチラチラ出てくるキャラがいて、最終章で目的がわかるというストーリーでした。


最近よく出くわす火盗改の同心樋口新三郎が少し気になりつつも、十兵衛は相変わらず関八州を歩いてさまざまな事件やもめごとの解決に尽力する。
船による輸送事業で生活している町に巣食う強欲な差配・船主の黒幕に灸をすえ、自分への復讐を果たさせるために故郷へ帰る男と知り合い、理不尽な殺され方をした友人の敵を討ち、吉宗公の手抜かりに四苦八苦しつつスッキリ真相究明にこぎつけ、檀那寺と檀那との争いがある小さな村の近くで凄惨な事件に遭遇し、貧しい村でなりゆきで樋口新三郎の手柄を横取りする形になり、気が進まない仕事に向かった先で秤改御用場の役人に無理難題を吹っかけられているという村人たちの愚痴を聞いていたら殺しが起こり偶然自分が以前取り逃がした下手人を捕まえることになり、思うところがあってある村に滞在していたら樋口新三郎の過去と事情を知ることになる。

ざっくり各話を説明すればこんなかんじ。
十兵衛がかっこよかったです。特に表題作はスカッとしました。佐藤さんの主人公たちにあんまり剣の遣い手っていませんが、十兵衛は強いですね。優しく真面目な十兵衛の一面を見られて嬉しかったです。基本的に優しくて真面目なんですが、たまにめんどくさそうにしたりしますから…それも含めて好きですが。やっぱりイイ男だなと今回でしみじみ。
とにかく、ファンには楽しい一冊でした。




高柴