いのちなりけり

高柴です


葉室麟さんの「いのちなりけり」を読みました。

いのちなりけり (文春文庫)

いのちなりけり (文春文庫)

やっぱり好みの作風です。爽やかで面白かった。
しかし…難しかった…。
2回読んでやっと全部理解できました。私の読み方がそそっかしいのがいけないのですが。
まず登場人物が多すぎ。さらにそれぞれに深い事情とか目的があり、それが何重にも折り重なってなにがなんだか混乱することが多かった印象。
主人公の仕える家がそもそも面倒なのです。ある大きな藩の支藩なので、支藩の藩主プラスその息子と本藩の藩主プラスその息子でもう誰が誰だか。名前も似てるし。さらに藩祖の某とかまで言われると、ちょっと待って〜と悲鳴をあげそうに(笑)
さらに、時間軸がきままに飛びすぎて、今はいったいどの時期にいるんだっけかと何度も要確認。


ストーリーは、
周りから軽く馬鹿にされているがまっすぐな気性の蔵人は、思いがけず身分違いの家中筆頭の家の娘咲弥の婿に迎えられる。しかし才媛の呼び声高い咲弥は学のない蔵人を軽んじ、夫婦になることを拒絶。二人は名ばかりの夫婦となる。
蔵人が婿に入った天源寺家は、立場が難しい家だった。蔵人はあるとき次期藩主から舅を討つようにと命じられる。
父を殺された咲弥は姿を消した蔵人を追うが、そのなかですべての真相と蔵人の深い想いを知る。
帰る場所を失った咲弥は縁あって水戸家の奥女中となり、その聡明さを生かして周りからも一目置かれるようになる。
一方の蔵人は祝言の日に咲弥から気紛れに突き付けられたある「望み」にこたえることを目標に生きていたが、運命はそんな二人に過酷な再会の機会を与えるのだった。


みたいな雰囲気。
これに個人対個人、家対家、幕府対水戸家、幕府対朝廷の構図が絡んできて緊張感のあるストーリーでした。登場人物も水戸光圀と助さん格さんのモデルが出てきたりうっかり八兵衛(小八兵衛)が隠密やってたり忠臣蔵の吉良が出てきたり賑やか。
吉良が密談で小石(邪魔者)を云々とか言って、密談相手が小石どころか大石(大物)も云々とか答えるシーンは絶対狙ってる。
あと、助さん格さんが「控えい、控えい」とか言うシーンも絶対狙ってる(笑)
まぁそんなわけで、さりげなく笑わせてくれましたが、先日読んだ「銀漢の賦」と比べると硬い話だったと思います。個人的には銀漢のほうが好み。
でも蔵人は本当にいい男。外見はむさ苦しいイメージなのに、性格が爽やかでうっかり惚れる。蔵人がいつも明るくいてくれるので、重くはなっても暗くはならなかったなぁ。
蔵人の決して揺るがぬ一途な恋がとてもよかったです。


春ごとに花のさかりはありなめどあひ見むことはいのちなりけり


この歌がねー。もう最初に出てきたときはふーん?としか思わないんですが、最後に再登場したときは号泣ですよ。魔法にかかったようでした。


毎年春ごとに桜は美しく咲き誇るが、その桜たちを見ることができるのは生きている間だけなのだ


みたいな意味ですが、蔵人の考えをもっと反映させると、
桜は永遠に春がくれば咲き続けるけれど、私たちは生きている間しかその桜と出会うことがない。つまり、その桜と出会う、そのことが「いのち」というものではないだろうか。
みたいなイメージになるのかな?私なりに考えてみたんですが、これくらいが精いっぱい。蔵人はすごいなぁ。
やはり葉室さんの作品はストーリーがしっかりしててカラッとしてるなぁという印象が深まりました。葉室さんにハマりそう。




高柴