将軍たちの金庫番

高柴です


佐藤雅美さんの「将軍たちの金庫番」を読みました。
「江戸の税と通貨」の改題です。

将軍たちの金庫番 (新潮文庫)

将軍たちの金庫番 (新潮文庫)


これは小説ではありません。江戸時代の経済というか、お金の流れを追ったものです。いつも資料を読み尽くし、勉強し尽くしていらっしゃる佐藤さんだからこそここまで書けるのでしょうね。あの方の努力にはいつも圧倒されます。でも作風はどこか飄々としてらして、そこがカッコイイです。
さて、この本のテーマは江戸時代の経済なわけですが、もう目から鱗の連発でした。ずっと不思議に思っていたことから、指摘されて気付いたことまで一気に解決。とてもスッキリです。
これだけだと、私以外なんのことだかさっぱりだと思うので、特に面白かった話をいくつかご紹介。
時代小説を読んでいて、もう常識みたいになっていることに、商人=裕福・武士=貧乏という図があります。もちろん、裕福な武士もたくさん出てきますが、内職に追われて日々の生活に汲々としている武士の多いこと。でも、一応当時は士農工商のはず。不思議だなーと思っていたのですが、徴税方法を説明されて納得。商人へかけられた税金が少なかったことに驚愕し、そもそも最初は商人に税をかけるという発想がなかったという説明に深く頷きました。確かに、商売というのは平和な時代が続いてこそ成り立つもの。江戸幕府が江戸という新しい土地でスタートしたときは、あんなに商人が活躍し、莫大な富を築いて経済を動かしていくことになるとは考えなかったでしょうね。


天領つまり幕府直轄領の年貢徴収率は他の土地に比べて大幅に低かった。そのため、奈良や倉敷などの元天領だった土地はたたずまいが違う。税が少なかった分、町づくりや家づくりにお金をかけることができたので、どっしりした風格がある。
という指摘にもハッとさせられました。 倉敷美観地区とか、確かに雰囲気ありますよね。


あとは田沼意次松平定信は結局何をして何をしなかったのか、とか、薩摩藩の経済的苦難とか、長崎での貿易でどんなことが起こっていたのかとか、開国のときの役人たちの苦労と無責任と混乱とか、ものすごく分かりやすく説明されていて、ひとつひとつが面白かったです。佐藤さんがご自分で消化して納得して書いておられるので、説得力があって読みやすいのだと思います。


そして、この本の中で佐藤さんがもっとも力を入れて書いていらっしゃったのが
「官府の印理論」にもとづく「銀貨の金貨化」
です。大げさに言えばまるで紙幣のような銀貨を作っちゃったみたいな話。現代のお金というのは国が価値を保証して、使う人がそれを信頼して成り立っているものです。私たちにとっては普通のことですが、これは実はすごいこと。今でも、不安定な国だと自国通貨よりもドルなどのほうが高い価値をもって流通してたりしますよね。
本当は銀貨なのだけど、幕府がそれに金貨と同じ価値を保証することによって金貨と同等として流通した貨幣があったという話なのですが、これは本当に驚きました。そして、このカラクリを役人含めてみんなよくわかっていなかったのではないかという指摘にひっくりかえりました(笑)色々凄すぎてニヤニヤしてしまいますが、これが最後開国のときに大混乱を招いたと知ると笑ってばかりいられません。
世界レベルで何歩も進んだことを平然とやっておきながら、基本的なことで失敗する幕末の役人たちにも少しがっかりでした。


そんなかんじで、時代小説ファンはもちろん、学生の方にもオススメ。いろいろ腑に落ちて面白いですよ。




高柴