黄金の灰
高柴です
柳広司さんの「黄金の灰」を読みました。
- 作者: 柳広司
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/11/30
- メディア: 文庫
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ストーリーは
「イリアス」のトロイアの存在を信じる大富豪シュリーマンは妻ソフィアと共にトルコで発掘作業に熱中していたが、ある日彼はとうとう伝説の黄金を発見する。しかしその夜、ボヤ騒ぎの中で黄金が忽然と姿を消し、死体がひとつ出現する。黄金を盗みだしたのは誰なのか?黄金の行方を探す彼らに第二の死の知らせがもたらされ、お互い疑心暗鬼に陥る。
誰もが少しずつ自分を偽り、少しずつ嘘をついていた。
混乱のなか、シュリーマンが導きだした答えとは?
みたいな話。語り手はシュリーマンの妻のソフィア。
シュリーマンといえば、一代で莫大な富を築き、幼いころからの夢で、学者たちがあれはただの伝説だと笑ったトロイの遺跡を発掘した人として有名です。トルコでは評判悪いらしいですね。めぼしいものはごっそりドイツに持っていってしまったので。あと、素人だったこともあり、発掘作業でかなり遺跡を激しく損傷したそうです。それも彼が非難される原因のひとつです。
でもね、私はシュリーマンのサクセスストーリーはひとつの伝説としてとても面白いと思うんです。「イリアス」のように美しくはありませんが、おとぎ話みたいじゃありません?壮大な夢を自分の力で叶えた人。これが生まれつき大金持ちのお坊ちゃんならただのわがままですが、身ひとつで財を成したときけばロマンの香りがする不思議。
そんなわけで、シュリーマンにもともと興味があったこともあり、大変面白く読みました。
ミステリとしては…どうかなぁ。殺人のトリックはあの悪夢の「トーキョー・プリズン」を思い出させるというか、アルセーヌ・ルパン並みの夢と偶然に溢れたトリックでしたが、登場人物たちの正体がじわじわと明かされていく過程はドキドキしました。
余談ですがアルセーヌ・ルパンの中に犯人(?)は隕石というのがありました。流れ星に当たって死んだというオチ。純粋なルパン信奉者だった幼き日の私でさえ、
「さすがにそれは…」
と突っ込んだ記憶があります。まぁルパンはミステリというより冒険小説ですからね。
黄金の隠し場所のヒントになった「盗まれた手紙」はポーですね。読んだことはありませんが、もっとも有名なトリックのひとつだと聞いたことがあります。いろんなミステリに出てきますし。
話がそれました。
そんなわけで、この話はトリックよりも犯人の動機に唸り、
「あなたは誰」
というテーマにぞくぞくする話です。
デビュー作とは思えない力強さがあって引き込まれました。楽しかったです。
高柴