風に舞いあがるビニールシート

高柴です



森絵都さんの「風に舞いあがるビニールシート」を読みました。この前の「架空の球を追う」が面白かったので、話題になった直木賞受賞作も読んでみようかと。

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)

印象的なタイトルですよね。普段の私なら絶対素通りするタイプのタイトルです(笑)こういうオシャレなタイトルってどうも苦手で。
話がそれました。
この「風に舞いあがるビニールシート」は短編集で、6作品が入っています。
好みだったのは「守護神」と「ジェネレーションX」
「守護神」は、大学の夜間部に通う単位が留年ギリギリの30代文学部男子学生が、レポートを代筆してくれるという伝説の学生「ニシナミユキ」を捜し出し、代筆を依頼しようとするが…
という話。
話の展開に意外性があってとても面白く読みました。オチもふふっと笑えたし、主人公の気持ちにも共感できました。

「ジェネレーションX」は、通販情報誌の編集者健一が情報誌に載った商品へのクレーム対応のため、その商品を販売した会社の社員と客に謝罪しにいく話。10歳ほど年下のその社員石津は健一には理解不能。お調子者で車を運転する健一の隣で延々と私用の電話をかけ続ける。しかし健一は石津の大切な「約束」と彼の意外な一面を知り…
という話。石津の私用の電話を健一と一緒に聞くことで、読者も少しずつ石津の友人関係に詳しくなっていく過程が愉快です。そして石津が客を説得するシーンはニヤニヤ。ラストは綺麗すぎる気もしますが、笑えてスカっと爽やか。話に合っていて良かったと思います。


「鐘の音」はなんだか仄暗い雰囲気の話なんですが、好みです。最後のほうで吾郎があっけらかんと「解決策」を口にしたときは爆笑でした。森さんは深刻さと滑稽さの落差のつけかたが本当にお上手だと思います。この笑いのリズムは好きです。


残りの「器を探して」「犬の散歩」表題作の「風に舞いあがるビニールシート」は、率直に言ってイマイチ。特に「器を探して」は、数年前に本屋さんで途中まで立ち読みして買うのをやめたある意味思い出の作品なんですが、最後まで読んでもやはりうーん。
「犬の散歩」はペットを飼っていらっしゃる方は深く共感できて良いのではないかと。動物に関心がない人にはちょっと入り込めない空気が漂っていました。
表題作の「風に舞いあがるビニールシート」はラストになんの意外性もないのが残念かな。
ただ、エドの「いや、里佳だとわかってた」のセリフは深く胸につきささりました。読み進めるとますますこのセリフの重さがわかって泣きそうになります。


森さんの作品をいくつか読んで、私はこの人の作品の「とぼけたところ」が大好きなんだと気付きました。だからちょっと肩の力を抜いて読めるような作品のほうに私は惹かれるのだと思います。完全に好みの問題ですね。おそらく評価されているのは人を感動させる部分だと思うのですが、感動するより楽しみたい私はこれからも森さんの「とぼけた」作風に期待したいと思います。





高柴