架空の球を追う

高柴です



森絵都さんの「架空の球を追う」の感想です。

架空の球を追う (文春文庫)

架空の球を追う (文春文庫)

とても面白かったです。久々に楽しく爽快な短編集を読みました。
おそらく11編のすべて、もしくは大半の物語の「私」は30代女性。でも立場は主婦、母親、OL、難民キャンプの孫のいる女性などさまざま。そして物語への関わり方もバラバラ。完全な傍観者だったり主役として動き回ったり。
それぞれ性格も立場もまったく違うけれど、彼女たちが生み出す物語の優しく爽快で愉快な温度は共通。
共感できすぎて爆笑したのは「銀座か、あるいは新宿か」と「パパイヤと五家宝
「銀座か、あるいは新宿か」は、高校時代の女友達4人組の年2回の飲み会の話。これほんとによくわかります。私も友人たちと毎回毎回飽きずにどうでもいいことを笑い転げながら熱心にしゃべっています。で、次の日には忘れてます。なんていうのか、議題はなんだっていいんですよね。そのとき気が置けない大切な人たちと時間を共有している、そのことがいとおしいのです。
「パパイヤと五家宝」は、同じこと考える人いるんだなぁと安心しました。
ある高級スーパーで自分が値段に怯んだパパイヤを無造作にカゴに放り込んだマダムのあとを追いかけてアレコレ考える話(?)なんですが、私もよく道行く他人を見ていろいろ勝手に推理します。だからこの話の「私」はオチも含めてまるで自分を見ているようでした。読んでいて何度も笑いました。
意外性のあるオチで笑ったのは「チェリーブロッサム」と「二人姉妹」
そういうオチかいっ!と、気持ち良く突っ込みました。どちらも一瞬深刻な事態を覚悟してしまうので愉快なオチとの落差が大きく吹き出してしまいました。
和んだのは「ドバイ@建設中」と「彼らが失ったものと失わなかったもの」
「ドバイ@建設中」は、ありがちなんですが、それがイイ!御曹司がカッコイイ。
「彼らが〜」は、ラスト2行が秀逸。ラスト2行で一気にお気に入り作品になりました。


そして私のイチオシは「ハチの巣退治」
「私」と同僚たちのテンポの良いやりとり、クスクス笑わせるギャグ、颯爽と彼らのもとに現れる青年。読み終わったら誰でもちょっと優しい顔になっているんじゃないかなぁ。


森さんの言葉の操り方が絶妙ですね。
“ガムでも踏んだような違和感にふと足を止めた”
とか。読者を置いてきぼりにしないギリギリのところで自分の言葉遊びを楽しんでいるような、そんな印象を受けます。どちらかといえばシンプルな文章が好みですが、森さんの言葉のセンスは好きです。ちょっと軽めで作風によく合ってますね。


他の作品もよかったです。ハズレなし。値段も安いし本当に良い買い物でした。オススメです。




高柴