百万のマルコ

高柴です



柳広司さんの「百万のマルコ」を読みました。

百万のマルコ (創元推理文庫)

百万のマルコ (創元推理文庫)

このマルコとはマルコ・ポーロのこと。
物語は、
13世紀末のジェノヴァの牢に戦争捕虜として放り込まれたさまざまな身分の若者たちと物語作者の「私」は、身代金を払うことができず、もう5年も牢に入っている。なによりつらいのは退屈なことだったが、あるみすぼらしい格好をした小柄な男が新しく加わったことで、大きく変わる。
その男の名はマルコ・ポーロ。マルコは今まで自分が広い未知の世界で経験した不思議な出来事について語る。話はたいていマルコが窮地に陥るところで終わるため、若者たちはどうやってマルコがその窮地を脱したのかをあれこれ推理してみせるのだが、なかなか知恵が浮かばない。
そうして彼らの議論が終わる頃、マルコはすました顔で誰もが思いつかなかった答えを与えるのだった。

みたいな話です。ホラ吹きマルコと呼ばれているのですが、本当のホラ吹きはマルコなのか柳さんなのか(笑)
どこまでが本当のマルコ・ポーロでどこからが柳さんのホラなのかわからなくてニヤニヤします。アラビアンナイトの話をさりげなく組み込んでいたり、マルコの話は本当に無邪気な冒険話でした。
また、西洋の東洋に対する偏見を痛烈に皮肉っているのもちょっと面白かったです。特に最後の紙幣を理解できないというくだりは愉快でした。
少し昔の小説だと、登場人物の西洋人が真面目に東洋人のことを野蛮で教養がないかわいそうな人々だと言ってたりしますもんね…。でも一番気の毒なのはよりによってあのシェークスピアに名指しで強欲扱いされたユダヤ人かも。
私は小説内の差別って気にならない派です。たまに昔の作品の最後に「作中不適切な表現がありましたが作品を優先しました」みたいな注意書があったりしますが、当然だろうと思います。たまたま今この時代は自由や平等が善ということになっていますが、過去や未来の人間が何を善とするかは彼らが決めること。過去の作品をこの現在の価値観が歪めることは許されないでしょう。
そんなわけで、マルコ・ポーロを使って逆に西洋をちょこっと小馬鹿にしてみせたこの作品、実際のマルコ・ポーロは別に東洋贔屓だったわけではないようなのでマルコさんゴメンネ状態ですが、その分とても賢く勇気ある人物として書かれているからチャラかな?




高柴