モッキンポット師の後始末

高柴です


先日、講談社文庫の100選フェアみたいなのを見ていると井上ひさし氏の「モッキンポット師の後始末」が目に入り、懐かしくなりました。確か父の本棚にあったはず、ということで発掘してきて読みました。

モッキンポット師の後始末 (講談社文庫)

モッキンポット師の後始末 (講談社文庫)

もう笑いっぱなし。とんでもない悪ガキがそのまま大学生になったようなカトリック学生寮で暮らす3人組が次々に珍妙だったり犯罪スレスレだったり思いっきり犯罪だったりする金儲けのアイデアをひねり出して実行に移し、バレて彼らの監督をしているモッキンポット師がその騒動の後始末をするというお話です。
時代は戦後10年経っていないころなので、学生たちの壮絶な貧乏っぷりは現代っ子には無邪気な昔話のようにさえ聞こえます。とにかくお金がない彼らが考えることは食べることと生きること。でも彼らが考えだす金儲けの手段は犯罪レベル。笑えないようなこともしでかすんですが、痛快なんですよね〜。自分が彼らの被害者になったら烈火のごとく怒ったと思いますが、横から眺めている分には実に愉快。時代もあるのでしょうか、彼らのしたたかさというかお金を得ることへの貪欲さがものすごい。そしてそんな彼らをなぜかいつも助けてくれる貧乏くじをひきっぱなしの神父さんと怒りながらも許してくれる(警察沙汰にしない)彼らの被害者たちがいいですね。なんというか、お金はないけど気持ちに余裕があるような気がします。
かなり下品だけどユーモアと茶目っ気溢れる文章はさすが井上氏。言葉の操り方がうきうきしているのに絶対にすべらない。だからぐいぐい引き込まれます。たとえば、こんな文章があります。<日野は土田とぼくに片目をつぶって、先見の明を誇った。土田とぼくは肩をすくめて、後見の暗を恥じた。>
当然「後見の暗」というのは井上氏の造語ですが(造語ですよね?)、土田とぼくが得意になっている日野を大げさに持ち上げることでちょっと日野にからかいの気持ちを向けている感じがよく出ていて面白いと思います。テンポが良く、2人の表情が見えてきそうです。ニヤッと笑わずにはいられません。
よくよく考えたらとんでもない不良学生なのに、なぜか可愛く、愉快に思わずにはいられない3人組と、ときに嘆き、ときに激怒しながらもけっして彼らを見捨てない愛すべきモッキンポット師の日々を描いたこの作品、スカっとしたい方、笑い転げたい方にオススメしますが、あまり上品な方にはオススメできないかも(笑)


高柴