猿丸幻視行

高柴です


井沢元彦さんの「猿丸幻視行」を読みました。

新装版 猿丸幻視行 (講談社文庫)

新装版 猿丸幻視行 (講談社文庫)


漫画「ちはやふる」で本屋でバイトしてる新が題名がわからない高校生の娘の課題図書を探すおばさんに、探してるのは「猿丸幻視行」じゃないかと言うエピソードがあり、てっきり架空の本だと思っていたのですが、現実にあってびっくりしました。講談社文庫のオススメ100選みたいなのに選ばれていて見つけました。これ、百人一首が題材のひとつになってるんですね。なかなか末次さんも凝ったことをしますね。

さて、あらすじですが
大学院生の香坂明は、ある日製薬会社の社員から実験に協力してもらえないだろうかと声をかけられる。彼の専門は民俗学。製薬とは無縁のため怪しむが、詳しい話を聞いて驚く。なんと香坂に試してもらいたい薬は「意識だけが過去の人物に乗り移れる薬」つまり、意識だけが過去へタイムスリップできる薬だという。香坂は論文で折口信夫のことを調べていたが、この薬は乗り移る人物のことを詳しく知っていればいるほど長く同化できるらしく、香坂に過去の折口の意識へ行って欲しいという依頼だった。
香坂には実は野望があった。それは一族に伝わる暗号で、それを解いた者は莫大な財と権力を得るという。当然彼はそれを解くことなどできなかったが、もしかすると天才折口なら解けるかもしれないと思い、実験に参加することに。
香坂に乗り移られているとは知らない折口は、友人柿本から先祖代々受け継がれてきた暗号の話を聞き、興味を持つ。暗号の答えは柿本の家を継ぐ者が口伝えで伝えてきたらしいが、現在の当主である祖父と柿本はソリがあわず、柿本は自分で暗号を解いて大もうけをしようとしていた。
折口はその驚異的な頭脳を駆使して暗号の答えに迫るが、どうしてもあと一歩のところで真実にたどり着けずにいた。しかし実家に帰った柿本から彼の故郷の村の祭りに誘われたことで事態は急変する。
2年前の柿本の父の死、暗号が解けたと言った柿本、淡い恋、そして友の死。
めまぐるしく起こる出来事に困惑しつつも、折口はとうとうすべての真実を知る。それはあまりに大きく、そして悲しい真実だった。


暗号を解くっていうのがメインなんですが、その暗号が超難しい。だんだん混乱してきて最後は
なんだかよくわかんないけどマジ凄い
という初めて字幕で映画を見た小学生並みの理解度でした。
江戸川乱歩賞受賞作ですが、ミステリとしてはどうなんでしょう?なんで香坂を実験に選んだかっていうと折口に詳しいから。じゃあなんで折口にこだわるの?別に折口以外の人でもよかったんじゃ?とか、挿話のエピソードの回収は?とかいろいろアレ?って思うことも多かったです。せめて挿話で殺されたっぽい人の意識に入ってたのが製薬会社の人間でその祭の謎を解くために折口と香坂に白羽の矢がたった、みたいな展開だったら納得できたんですが。そして実は製薬会社の人間が黒幕で〜とか。
殺人事件は本当に無駄。犯人は!?みたいなワクワク感は犯人わかりきってるからないし、犯人も動機もまるでサスペンス劇場。
暗号だけで十分どきどきできるのに、なんで血なまぐさい展開に持っていったのかなぁ。ああ、折口が発表しなかった理由を作るためか。
でも、意識だけがタイムスリップという発想はとても面白かったです。しかも興味のある時代に行けるというのがいいですね。意識に乗り移るだけで乗り移った人物になんの影響も与えられないというのもタイムスリップによって生じるややこしいトラブルをすっきり回避できるので素晴らしいです。
結論としては、暗号好きな人には全力でオススメ。百人一首とか万葉集とか昔の歌に隠された謎みたいなのが好きな人にもオススメ。ただし作者が作った設定が多いので「ダヴィンチ・コード」みたいな展開を期待してる人には向かないかも。
折口がさくさく解いてくれるので、テンポよく最後まで付き合えました。面白かったです。



高柴