みをつくし料理帖「小夜しぐれ」

高柴です



みをつくし料理帖シリーズ最新刊「小夜しぐれ」を読み終わりました。

小夜しぐれ (みをつくし料理帖)

小夜しぐれ (みをつくし料理帖)

どういう形の感想にしようか迷ったのですが、まだ読んでない&楽しみにしてるからネタバレは嫌だけど感想は知りたいという方と、別にネタバレあっても気にしない、むしろどんな話だったか知りたいという方、もう読んだから他の人の感想に興味があるという方のために、感想を分けます。まず、ざっくりした感想(ネタバレなし)、その下に今回の各話のあらすじ(オチは明かさない程度のネタバレ有り)、そのさらに下に各話のオチのネタバレを含めた感想を書きます。よろしくお願いします。
まずざっくりした感想を。話のまとめかたが良かったです。文章の野暮ったい表現が洗練されてきたような気がします。読者が飽きないようにでしょうか、話の雰囲気も少しいつもと違うかんじがして新鮮でした。十分満足できましたし、読んでいる間すごくお腹がすきました(笑)料理を扱った話はたくさんありますけど、やっぱり読んでお腹がすくかどうかというのがひとつの基準だと思うんです。「小夜しぐれ」はきっちりお腹がすいたので合格ですね。
ただ、いつもより話が淡々としていたかもしれません。澪もだいぶ成長しましたから、前ほど心を揺らさなくなりましたし。私は基本的に女キャラに厳しいので、いつまでも成長せずに同じような失敗を繰り返すような女主人公を好ましく思いません。ですから澪の成長を嬉しく思いますが、初期の一つ一つの不運に健気に立ち向かっていく澪が好きな人は少し物足りないかもしれませんね。
まぁいろいろ言いましたけど、すっきり綺麗にまとまった良い話だと思います。登場人物は今回はおりょうさんの影がいつもより薄かったくらいで他はまんべんなく皆しっかり出ていました。
過去の話が出たり今まで引きずってきたある件の決着がついたり、みをつくしシリーズファンなら読んで損はない一冊です。
面白かったです。


では次は各話のあらすじをご紹介。オチは書きませんが、相当ネタバレするのでご注意。下げます。









第1章「迷い蟹ー浅鯏の御神酒蒸し」
季節は睦月。料理の食材はあさり。
もうすぐあさりが出回りますね〜。ボンゴレにして食べるのが今から楽しみ♪白ワイン買っておかないと。
と、あさりの文字によだれがでそうになりながら読み始めたのですが、なかなか重い話でした。
皆が待ち焦がれた三方よしの日、種市の別れた妻が現れる。
彼女に激しい憎しみを見せる種市。そんな種市につる家の奉公人たちは驚きを隠せない。そしてとうとう種市の口から昔の話、亡き娘おつるの話、が語られる。


20年前
種市の元妻でおつるの母親お連が突然現れる。彼女は娘が6つのときに若い男と家を出てからずっと音信不通だった。
老いて色香があせた彼女は娘をひきとりたいという。勝手なと怒る種市に、男親ゆえに17になった娘に娘らしい華やかさを持たせることができていないとお連は種市を責める。
おつるは優しい娘だった。母親が困っているのを察した彼女は1年だけという約束で母親のもとへ行く。しかし半年後、悲劇は起きた。種市は自分にも責任があると苦しむと同時に娘を直接死に追いやった者たちが誰も罰せられずにいることに激しい憎悪を燃やす。
そして種市は一番許せない男がまた江戸に戻っていることを知る。


というお話です。人はやり直すことができるのか?がテーマかな。種市があれほど澪のために一生懸命になってくれた理由がわかります。そして最初におむすびを持ってきてくれた話を思い出してちょっと涙。余談ですが今までのシリーズで一番食べたいと思ったのは種市のおむすびです。めちゃくちゃおいしそうでした。



第2章「夢宵桜ー菜の花尽くし」
如月〜弥生。食材は菜の花。
菜の花といえば白和えが好きです。少し甘い味付けとほろ苦い菜の花が良くあいます。普段はほうれん草を使ったりしますが、春はやはり菜の花を使いたいですね。早く食べたい…。
と思いながら読み始めたこの章。今回の話で一番好きです。


いつも澪たちを助けてくれる源斉先生が倒れたという知らせが入る。彼を慕う美緒の家、伊勢屋で休んでいるらしく、伊勢屋の使いが澪に料理を頼みに来た。伊勢屋で彼に料理を出す澪。そんな二人をじっと見つめる伊勢屋の主人。
三方よしの日、澪はあさひ太夫のいる翁屋楼主伝右衛門から花見の宴に集まる上客たちに料理を作ってほしいと依頼される。
あさひ太夫のそばに行きたい澪は承諾するが、料理を出す相手は湯水のように金をつかうことに慣れた上客たち。普段、澪が料理を出している客たちとも、始末を身上とする大坂商人たちとも違うタイプだ。彼らを満足させる料理の献立に悩む澪だったが、源斉と小松原の助言を活かし、素晴らしい料理を思いつく。
宴の日。彼女の料理を絶賛する声が続く中、もっともややこしい客の機嫌が急降下。どうしようもない状況を救ったのは…?
そして宴終了後、彼女は楼主からあることを持ちかけられる。すぐに返事ができない澪。彼女の決断は次章で。


源斉も小松原も両方必要だよねという話。…いや当然違いますけど澪は源斉先生に甘えすぎだと思うんです。源斉先生が野江ちゃんの次に、つまり2番目に好きな私としては彼の優しさが勿体ないような気がしてしまいます。澪も小松原なんてさっさと諦めて源斉先生にすればいいのに…。
私はやっぱり澪が献立を考えているときが物語の中で一番好きなので、この話はとても好みでした。献立も意外性があってメインテーマとしてしっくりきましたし、面白かったです。
そして澪が伝右衛門の申し出をすぐに断らなかったのが意外でした。悩むところが彼女らしく、賛否両論あると思いますが私は好ましく思いました。
あと、又次の活躍も光っていました。料理での澪とのコンビネーションにも磨きがかかってきたような気がします。基本的に彼のような「俺って不幸キャラ」は好きではないのですが、さすがにだんだん慣れてきましたね。いつか彼とあさひ太夫のエピソードが書かれることもあるのでしょうか。あさひ太夫が出るならなんでもいいから読みたいです。




第3章「小夜しぐれー寿ぎ膳」
弥生から五月。
一応メインは鰊(ニシン)、しかも身欠き鰊という鰊の腹身をとって乾かした大坂で食べられていたもの。
…さすがにわくわくしない私。どんな味か知らない(笑)


伊勢屋の我儘娘に縁談が持ち上がる。なんと相手は源斉ではなく、伊勢屋の中番頭だという。人柄は良いが顔がイマイチで歳もひと回り上。断固拒否して家を飛び出した美緒はつる家に飛び込んでくる。
そんな騒動が続いたある日、種市が店を休んで息抜きをしに浅草へ行こうと提案する。美緒も誘い、夫の親方宅に不幸があって来られないおりょう以外のつる家の全員で浅草寺に着いたが澪と芳は他の3人とはぐれてしまう。そんな中、2人は芳の息子で若旦那だった佐兵衛を見つける。後を追う澪は舟に乗ってしまった佐兵衛に必死で呼び掛け、彼が本物の佐兵衛であることを確信する。なんとか芳が「つる家」にいることだけを伝えることはできたが、また佐兵衛の行方はわからなくなってしまう。
落胆する芳と役にたてなかったと悔やむ澪。しかし芳はやがて気持ちを持ちなおす。
一方、澪は自分の左指のことを源斉から聞き、伝右衛門の申し出に対する返答を決める。
そのときの2人の様子を見ていた美緒は、ある決心をする。



美緒は正直苦手です。なんとなく。ちらっと登場するくらいなら可愛いですけどね。まぁ彼女の恋も決着したので、次から出番が減るかもしれません。もしくは人間的に大きく成長するか。
今章はそれよりも若旦那です!密かに1巻から彼のことが好きで、アレ?作者忘れてない?とか思っていたらようやく3巻で詳しいことがわかり、よかった作者覚えてた…と安心していたのですが次はいつ出るんだろうと心配していたので、無事な姿を見られて嬉しいです。芳と早く再会してほしい、というか彼が料理をする姿を見たい!だって言い方悪いですけど下っぱの澪であの腕でしょう?嘉兵衛のもとで一人前になった佐兵衛の実力ってどんなだろう?考えただけでわくわくします。





最後の第4章は
「嘉祥ーひとくち宝珠」
他の3編と比べると短めの話。で、主役はまさかの小松原こと小野寺数馬。澪もつる家も登場せず。
数馬が新しい菓子作りに苦心するという話。
妹の夫で竹馬の友でもある弥三郎と研究のため菓子を食べ歩きながらいろんな話をするわけなんですが、小野寺家の女たちの凄さしか記憶に残らない(笑)気が強いだけでなく腕っぷしも強い数馬の母と妹。もはや数馬の気分は猛獣使い(しかも全然使えていないという…)
小松原ファンには嬉しいプレゼントですね。あまり興味がない私でも楽しく読めました。
後半は数馬と妹のやりとりがよかったです。良い妹さんです。猛獣だけど。
できあがったお菓子があんまりおいしそうじゃなかったのが少し残念だったかなぁ。


さて、ここからは結末ネタバレ有りの言いたい放題感想〜。未読の方は要注意。







野江ちゃん格好いい!ああやっぱり野江ちゃんが大好きです。たとえ一瞬でも野江ちゃんが出てきてくれて私は幸せでした。
上にも書きましたけど、澪が伝右衛門の申し出をすぐに断らなかったのが意外でした。義理を最優先させてつる家以外では働けないとか言いだすかと。でも考えてみたら澪の望みは天満一兆庵の再建と野江を取り戻すことですもんね。目先の感情に振り回されずに自分の目的についてしっかり考えられる澪は素晴らしいと思います。
同時に改めて軽率に自らの指を傷つけた彼女を残念に思いました。あれほどの才能に恵まれながら自分で可能性を潰してしまうなんて。
でもあの話を断ったのは正しかったと思います。やっぱり何か違う気がするし。

今回もキラリと光ったのは芳の言葉です。種市に怯えるふきに言った言葉と営業妨害の美緒に言った言葉にはスカッとしました。こんな女上司がいいですね。唯一の弱点である息子の件では相変わらず取り乱してましたが、落ち着いてから澪に謝る彼女が素敵でした。周りと自分のことがしっかり見えている女性です。源斉先生のお母様といい小松原の母上といい、中年女性がみんな格好いいです。現実はこういう人はほとんどいないのが残念です。
やっと美緒が源斉先生を諦めてくれてホッとしました。でも美緒の
「あなたを嫌いになれれば良いのに。心から憎めれば良いのに」
でちょっと可哀想になりました。だって澪も相当ひどいですよね。ちゃっかり源斉先生に頼ってしまってますもの。でも、澪には頼れる人が少ないのでしょうがないのかな。相手が普通の女の子ならもっと同情しますけど、美緒はあまりに多くのものを持っているのでやっぱり同情はできないです。ごめん美緒。でも大好きな源斉先生がなんとなく我儘娘と結婚とかいうオチになるのを恐れていたので安心してしまったよ…。 しかしこの「あなたを嫌いになれたらよかったのに」パターンは物語ではよくありますけど、現実でもよくあるんでしょうか?私はいつも「あなたを嫌いになりたくないのに」パターンなんです。やはり私は弱いのでしょうね。「あなたを嫌いになれたらよかったのに」と言えた美緒は強いと思いました。
あと、今回も当然戯作者清右衛門と版元坂村堂の漫才は健在。しかし珍しく今回は坂村堂さんのほうが活躍。さりげなく清右衛門をからかったり、意外とスゴイ人なのかも。


しかしこれからどう動くのかな〜。まったく想像がつきません。とりあえず若旦那さんの件だけでも早めに解決してほしいなぁ。この調子だとまだまだ続きそうですね。最後まで見届けたいです。






高柴