恵比寿屋喜兵衛手控え

高柴です



今日は大好きな佐藤雅美さんの作品「恵比寿屋喜兵衛手控え」をご紹介します。


久々に佐藤雅美さんにまたハマってる私ですが、佐藤さんの直木賞受賞作を読んでないことに気付きさっそく読んでみました。
それが「恵比寿屋喜兵衛手控え」なのですが、ものすごく佐藤さんらしい作品でした。面白かったです。主人公の喜兵衛は他のシリーズモノの主人公たちと比べるとやや地味というか人間くさいかんじです。どうしようもない奴の代名詞みたいな花田は半次シリーズの小三郎にちょっと似てます。まさか小三郎がまともに見える日がくるとは思わなかった(笑)

恵比寿屋喜兵衛手控え (講談社文庫)

恵比寿屋喜兵衛手控え (講談社文庫)

佐藤さんの主人公たちは、根っこが似ている気がします。情に厚く、自分なりの美学というか譲れない信念みたいなものを持っているけど、ものすごく頭が良かったり剣術に秀でていたり男前だったり自分よりも他人のために尽くすみたいなヒーローじゃない。ちょっと不器用な普通の人なのです。事件もたまたま解決みたいなパターンが多いし。


このブログを始めてから話題にあまり出していませんが、当然山本周五郎氏・海音寺潮五郎氏・藤沢周平氏・池波正太郎氏・司馬遼太郎氏などの時代小説ファンの基本ともいえる作家たちの作品も読んでいます。さすがに膨大な作品数ですので半分も読めていませんが、個人的に藤沢周平氏の作品が好みです。日本人好みですよね。
この時代小説の超大物作家たちは、それぞれ作品の傾向も文章も違いますが、主人公がいろんな意味で「カッコイイ」のは共通していると思います。相当ざっくり言ってますから、○○氏の△△作品の主人公はそうじゃないとかいうツッコミはおいておきます。あくまで私のイメージの話です。
それに比べると、佐藤さんの主人公はなんか「ちょっとカッコ悪い」人が多いのです。今回の主人公の喜兵衛も頭は悪くないし情にも厚いし良い人なのですが、それと同時に自分勝手な面も冷たい面もちゃんとあったりします。
話のオチも、勧善懲悪ではなくちょっと皮肉っぽいオチだったりします。


私の勝手なイメージですが、佐藤さんの作品は「じわじわ面白い」タイプだと思います。ラストでスカっとしたりオイオイ泣いたりという派手で忙しいタイプでも、心がほんのりあったかくなる優しいタイプでもなく、あえて表現するなら最後にニヤリと口だけで笑ったり小さく嘆息したりする、そんなラストが多いです。
スパっと白黒つける必要なんてあるのか?世の中善と悪しかないわけじゃないだろう?
と、言われているような気がします。勧善懲悪というよりは、因果応報みたいな。
なんかごちゃごちゃ書きましたけど、私はそんな曖昧さを持つ佐藤さんの話に惹かれているのかもしれません。
あ!ちなみに、ラストは曖昧でも佐藤さんの時代考証はすごいです。きっとご自分で調べて納得されなければ気が済まないのでしょう。細かい法律の仕組みや判例、慣習まできっちり書き込んでおられるので、ものすごくリアリティがあります。だから面白いのだと思います。


渋くて粋な時代小説だと思います。オススメです。





高柴