新潟樽きぬた 明和義人口伝

高柴です



火坂雅志さんの「新潟樽きぬた 明和義人口伝」の感想です。
新潟といえば火坂さんの出身地。期待して読みました。

新潟樽きぬた 明和義人口伝 (小学館文庫)

新潟樽きぬた 明和義人口伝 (小学館文庫)

あらすじは
江戸時代、新潟は柳都(りゅうと)という美しい通り名を持つ北国第一の湊町だった。全盛期は
砂丘の砂も黄金でできている」
といわれるほど富に溢れた町だったが、隣藩の河川工事をきっかけに河の流れが変わり、湊へ流れ込む水の量が激減したせいで大型船の入港ができなくなり一気に出口の見えぬ不況へと落ち込む。
しかし新潟を主要な財源とする長岡藩は莫大な御用金を課す。町民たちは不可能な資金繰りに頭を悩ませていたが、そんな彼らを尻目に景気の良い商人たちが。
彼らの正体は「検断」
新潟町は長岡藩から派遣された2人の奉行たちが治めていたがお飾りにすぎず、町の町政は長岡藩が指名する3人の「検断」を筆頭とする商人の町役人たちが取り仕切っていた。彼らには御用金免除という特権も与えられ、「超特権階級」として暴利を貪り、もともと町民たちから恨まれていたが、とんでもないことが発覚する。
なんと、検断は奉行たちと共謀し、町民たちが長岡藩に納めた御用金の上前をはね、奉行たちに賄賂を贈っていたのだ。
なんとか理性的に対処しようと呉服商涌井藤四郎は町の重立ちたちと話しあいを重ねるが、それが検断側に漏れ、藤四郎は投獄される。怒りが爆発した町民たちは打ち壊しを始める。
彼らの興奮がエスカレートし始めたとき、それを止めたのは牢から出された涌井藤四郎だった。藤四郎は武力で奉行の機能を止めた新潟町を導き、市民自治を実現させる。それはパリコミューンより100年も前に行われた奇跡だった。
藤四郎主導の市民自治はうまく機能したが、長岡藩が黙って見逃すはずはなく、藤四郎と彼を支持した主だった町民たちは捕らえられ、藤四郎にはもっとも厳しい刑がくだされた。
長岡藩はこの騒動のもみ消しに躍起になったが、藤四郎を慕う芸妓たちは口伝でこのことを語り継いだという。


みたいな話。普通、打ち壊しというのはどんどんエスカレートしてめちゃくちゃに壊しまくって最後は武力で押さえられて終わりというパターンなのですが、この新潟町の場合はまず藤四郎という「義」を重んじる賢い男の存在と、「お日和もらい」の精神が息づくこの湊町の土地柄のおかげで2か月という短い期間とはいえ、市民自治が成立したというのが奇跡的。そしてこういう話はマイナー好きの火坂氏得意の題材と言えます。
ちなみにお日和もらいというのは目先の利ばかり追い求めるより相手の立場になって思いやりの心をかけるほうが長い目で見れば町の繁栄に繋がるという考え方で、近江商人の「三方よし」の心得に似ていますね。美しく理にかなった考えだと思います。
火坂氏にしてはあっさり淡々とした展開で、ページ数も少なく文庫で200ページ弱。しかし火坂氏らしく芸妓のお雪という女性を登場させ、彼女と藤四郎のつかの間の恋をさらりと入れています。お雪はあまり出しゃばらないので、物語の邪魔にはなりません。このあたりのさじ加減は見事です。
最初からわかっていたとはいえ、ラストはめでたしめでたしでは終わらないので少ししんみりしますが、これまであまり興味がなかった新潟に急に行きたくなりました。それくらい、新潟の描写は美しく火坂氏の愛情を感じましたね。
涌井藤四郎と、柳都新潟を知ることができてよかったと、そう素直に思えた一冊でした。





高柴