愛しの座敷わらし

高柴です



荻原浩さんの「愛しの座敷わらし」の感想です。
久しぶりにほのぼのした話を読もうと思って購入。
すっごく面白いというわけではなかったですが、そこそこ楽しめました。笑えて泣ける!みたいな騒々しさはなくて、クスッと笑ってちょっとホロリみたいなかんじ。
簡単にあらすじ
食品メーカーに勤める晃一は、東京の本社から東北の田舎に異動になる。つまり左遷だが、彼はこれを機にもっと家族との時間を増やそうと考える。
そんな晃一が一目惚れした新居はド田舎の大きな古民家。スーパーも駅も遠く、トイレは水洗ではない。妻の史子は断固反対の姿勢をとるが、結局その家に家族で引っ越すことに。家族は5人。
晃一の母澄代は3年程前に夫を亡くし、晃一たちの家で同居している。ときどき物忘れがひどいため、息子夫婦から認知症ではないかと疑われているが、本人はしっかりしており、失礼なと思っている。
娘の梓美は中学2年生。梓美は東京で友人たちから仲間はずれにされており、東北へ転校することで「リセット」できると東北行きに期待している。
息子の智也は小学4年生。智也は小さいときに喘息にかかったことがあるが、今は元気いっぱいの普通の優しい少年である。
左遷され、家庭でも居場所がない父親と不満ばかりの妻、老化による身体の不調を数え上げていつも不機嫌な姑、ワガママで家では生意気に振る舞うが学校では友人たちの顔色ばかり窺っておどおどしている娘、母親の過保護にうんざりしつつも、基本的に素直な息子。
このバラバラな家族が成り行きで住むことになった古民家にはなんと伝説の座敷わらしがいた!座敷わらしを裸眼で見ることができるのは智也と澄代だけ。一番懐かれてずっとおんぶをさせられている史子は最近肩凝りがひどいと感じるくらいである。
しかし不思議なことが続き、ついに一家は座敷わらしの存在を確認する。
新しい環境でそれぞれが成長し、変わっていく。そしてお互いの成長と座敷わらしの存在が家族の繋がりを変えていく。

愛しの座敷わらし 上 (朝日文庫)

愛しの座敷わらし 上 (朝日文庫)

テレビドラマとかでありそうな話ですね。この小説は映画化されるようですが。
個人的に、作者はなんで中学2年女子にこんなに詳しいんだろうと驚きました。あれくらいの女の子は毎日学校で居場所を確保するのに必死で、友達に嫌われないかとビクビクしているのです。
高校生くらいになるとわかるんですよ。意外と嫌われないんだなって。そして自分を嫌う人と友達であり続ける必要なんかないんだなって。
さて、本や漫画では田舎というものを妙に絶賛したり、逆にこきおろしたり評価が両極端であることが多い気がします。絶賛派は人と人との結びつきがしっかりしていて人柄ものんびりしていると言い、こきおろす派は田舎は陰湿で意味不明な付き合いを強制させられると呟く。
まぁ田舎は近所付き合いがとにかく面倒なんです。自治会関係・親戚関係・お寺関係etc…
あれはそういう環境で育ってないと理解できないと思います。でも畑でとれた野菜や果物をたくさんいただけたり、顔見知りばかりなんで治安がよかったりというメリットも当然あります。つまり一長一短。
子供のころは田舎のほうが楽しいかなぁ。私は子供のころ、探検家兼ハンターでした。探検ごっこが大好きで、幼馴染たちと近所の山に登ったり蓮華畑で花束を作ったり蜜をがしがし味わったりクローバー畑でゴロゴロ転がったり、田んぼに水が入る時期は溝に冷たい水が流れるので水遊びをしたり。虫取りにも熱中していて大物のアゲハを追い、クマゼミを追い、トノサマバッタを追っていました。実際網にかかるのはモンシロチョウやアブラゼミや普通のバッタなんですけどね。ああ、一度、何を思ったか大きなビンに田んぼで捕獲したオタマジャクシを20匹くらい詰めて意気揚々と帰宅したことがあります。母にコレが全部カエルになったらどうするつもりか聞かれてやっと自分の猟の計画性のなさに気付き、田んぼに戻しに行きました。オタマジャクシたちは多少目を回していましたがみんな無事でしたよ。ちなみに今は虫は全然ダメです。なんで昔は平気だったのか不思議。
私のアホな子供時代の話はさておき、今回は「座敷わらし」がキーポイントなんですが、作者の「座敷わらし像」がしっかり伝わってきたのは良かったと思います。こういう不思議な妖怪とか神様みたいなキャラって設定が難しいと思うのですが、この作品の座敷わらしは設定がしっかりしていたので、最初から最後までブレることなくきちんと物語の中心としての役割を果たしていました。ただ、他のキャラにもう少し魅力があればなぁと思いました。みんな良い人良い子たちで好きでしたが、愛おしくなるというほどではなかったですね。ストーリーが普通でしたので、余計にキャラの地味さが目立ってしまったように感じました。でも良いお話でしたよ。ラストは思わずうるっとしましたし。
軽くてそこそこ読みやすい文章なので、電車の中で読むのにオススメします。




高柴