ジェノサイド

高柴です



高野和明さんの「ジェノサイド」を読みました。
私、高野さんのファンなんです。久々の新作で、しかも某週刊誌での評価も高くものすごく期待して読みました。
うーん。
確かに高野さんの世界は広がったかもしれないけど、私が期待しているのは小さな伏線をち密に張り巡らせて最後に鮮やかに回収してみせ、
「はっ!なるほど、やられたなー」
って苦笑いさせてくれるような、そういう作風なんです。
例えば、「13階段」で三上がナイフを持っていた理由のオチとか、3時間後に僕は死ぬで手塚が転んだ理由とか、小さいけれど確実に何かがおかしいと読者が思っているところへ、きちんと納得のいくオチをくれる、そういう細かいところまでしっかり計算しているところが好きでした。
でも今回の「ジェノサイド」は、メインのトリック(?)だけに力を入れていて、ハッとさせるひねりのきいた小さなトリックはありませんでした。もう少しひねってほしい。例えば、私はギャレットを最後どう扱うかにすごく期待していました。彼の立場を考えると、普通の作者ならこうするだろうけど、高野さんは何か違う案があるに違いないと思っていたら…普通に超平凡な結末になりました。もうB級ハリウッド映画並みの単純さ。こんなラストしか浮かばないなら最初からややこしい設定つけるなよ!と文句を言いたくなりました。ミックも取ってつけたような設定を背負わされて結局支離滅裂な人間になっていましたし。

ジェノサイド

ジェノサイド

簡単にあらすじを書いておくと…
大学院生の研人は急死した父親からメールを受け取る。父親はある難病の特効薬の研究をしていたらしいのだが、その研究は「人間」の能力を超えたものだった。戸惑いながらも父親の研究を引き継ぎ、難病の子供を助けるために研人は薬を完成させることを誓う。
そのころ、難病で余命わずかな息子をもつ傭兵イエーガーは、大金を提示されてある仕事を請け負う。その仕事とは、アフリカの奥地に住むある少数民族のキャンプを全滅させることだった。3人の仲間と共にアフリカのジャングルに潜入したイエーガーは、自分たちの仕事に隠された驚くべき秘密を知る。それは、そのキャンプで誕生した人間を超えた頭脳を持つ存在の抹殺である。自分たちの身も危ないと悟ったイエーガーたちは、その人間を超越した子供アキリを連れてアフリカ脱出に挑む。


以下ネタバレ





アキリたちを守っているつもりが、実は彼らに使われていたという逆転の展開や、アキリたちが薬を必要とした理由などは高野さんらしさがよく出ていて面白かったです。
高野さんの苦手なところは、たまにくどくなることです。今回はとにかく某国への攻撃(?)がくどかった。もう酔っ払いレベルのくどさ。最初は笑っていられましたが、だんだん飽きてきました。それに、「13階段」のときの死刑制度を扱ったときのような高野さんのギリギリのバランス感覚に敬意を持っていたので、今回の「とにかく某国がキライなの!信じられないの!」みたいなヒステリックな書き方にはちょっと驚きました。
そしてアキリを守ろうとするピアースと日本の「協力者」に狂気を感じるのは私の感覚がおかしいのでしょうか?彼らの目的は一体なに?学術的な興味?人情?世界を壊したい?何にせよぞっとします。
そんな中、私のくさくさする心を癒してくれたのが研人。彼の成長は読んでいて好ましかったです。彼の研究も興味深かったですし。
もう少し「サイエンティスト」が意外な人だったり、警察以外の敵がいてもよかったのになーとは思いますが。


そんなわけで、派手で豪華だったけど、そんなにハッとさせられなかったというのが私の感想です。確かに小説の中の世界は広がったけれど、小説の世界って広ければいいってもんじゃないし、派手ならいいってもんじゃないなぁと、あくまで私の好みの話ですけど、そう思いました。
と、厳しいことばかり書きましたが、最後まで夢中にさせる文章力はさすがですし、世界の奥行きもあります。これが高野さんでなければもっと誉めていたと思います。期待が大きすぎました。





高柴