「黒い悪魔」

高柴です



佐藤賢一さんの「黒い悪魔」を読みました。
「三銃士」で有名なアレクサンドル・デュマの父親のアレクサンドル・デュマの一生を描いた作品です。ついでにアレクサンドル・デュマの息子もアレクサンドル・デュマです(笑)
以下、紛らわしいので「三銃士」の作者のデュマを大デュマ、この小説の主人公である父親をアレクサンドル、大デュマの息子で「椿姫」で有名なデュマを小デュマと呼ぶことにします。


大デュマが混血であったことは知っていましたが、父親がフランス人と植民地女性とのハーフだったのですね。つまり大デュマはクォーターだったわけです。
そして、なんと父親はフランス革命の時代の将軍!
親子3代とても華やかな家ですね。

黒い悪魔 (文春文庫)

黒い悪魔 (文春文庫)

この作品の簡単なあらすじは
アレクサンドルは植民地で生まれ、子供のころにフランスに帰っていた父親に引き取られ教育を受けたが、最後まで私生児としての立場は変わらず、父親の姓ではなく母親の姓であるデュマの名前で軍隊に入った。

貴族や金持ちたちが主要ポストを占める当時の軍隊で混血のアレクサンドルが出世するのは容易ではなかったが、ちょうどフランス革命が起こりその混乱と時代の変化にうまく乗って目まぐるしい出世を重ねていく。フランス革命のすべての人間は平等であるという思想は自分の強く美しい肉体を誇りに思う反面、混血ということにコンプレックスを抱いていたアレクサンドルにとって大きな救いとなった。
強烈なほど気位が高い反面、切ないほど「認められる」ことや「必要とされる」ことへの執着をみせる彼は、ナポレオンという天才に能力を認められるという最高の栄誉に酔うが、エジプト遠征でナポレオンの不興を買い、さらにエジプトからの帰国中に敵国に捕虜として捕えられ幽閉されてしまう。
なんとか生きて帰国するが長い幽閉生活で健康を損なってしまったアレクサンドルは、自分に残されたわずかな時間で同じ名を受け継いだまだ幼い息子が誇りに思える父親の記憶を残すために精一杯の努力をする。


という話でした。
結局、幼かった大デュマは父親のことをあまり覚えておらず、周りの人たちからアレクサンドルの武勇伝を聞き、それを勝手に自分で脚色するのが好きという彼の将来を暗示するラストだったのですが、大デュマのあの痛快な物語たちの原点としての説得力はありました。
アレクサンドルが軍隊に入ったときのエピソードはダルタニャンが三銃士たちに決闘を申し込む流れと同じ(計画的か不可抗力かの違いはありますが)で笑ってしまいました。あれって本当なんですかね?まぁ嘘でも楽しいのでかまいませんが。


佐藤賢一さんの作品にはあまり詳しくありません。けっこう好きなほうなんですけど、「王妃の離婚」「双頭の鷲」「カエサルを撃て」そして今回の「黒い悪魔」くらいしか読んでいません。
この中では「王妃の離婚」が一番面白かったような気がします。読んだのが10年くらい前なので、頭の中で勝手に美化しているのかもしれませんが、少なくともフランソワの
「新しい弁護士は俺だ」
にはゾクッとさせられました。
次は「双頭の鷲」かな。全然知らなかった英雄の生涯。ああいう天才的に戦争が強い人の話が好きなので。
で、その次が今回の「黒い悪魔」
大好きな大デュマの父親ということで期待が大きかったのもあるけれど、何より登場人物たちを主人公含めていまいち好きになれなかったのが痛かったです。「双頭の鷲」は、周りの側近とか奥方とか魅力的でしたし、「王妃の離婚」は主人公のフランソワが魅力的でした。やはりストーリー展開も大切ですが、登場人物たちも重要です。読者は数時間から数日間彼らと付き合っていくわけですし。

ちなみに「カエサルを撃て」は…
ノーコメント
でお願いします。

「黒い悪魔」はデュマ家3代3部作の第1作目で、次が大デュマ、最後が小デュマを取り上げているようです。うーん。続きを読むか悩むなぁ。
それにしても…3人のうち2人が私生児なんですね。アレクサンドルは自分の孫に私生児がいると知ったらどう思ったでしょうか…。



高柴