褐色の文豪

高柴です


佐藤賢一さんの「褐色の文豪」を読みました。

褐色の文豪 (文春文庫)

褐色の文豪 (文春文庫)

NHKで始まったBBCドラマ「マスケティアーズ」を見ながら、そういや褐色の文豪って文庫化したのかな?と思って調べたらとっくに文庫になっていて慌てて購入。前作の黒い悪魔を読んで、次も文庫になったら買おうと思っていたんですが忘れていました。次は気をつけなきゃ。
というわけで、三銃士の作者アレクサンドル・デュマの生涯を描いたこの作品。あの文豪アレクサンドル・デュマの生涯を佐藤賢一さんが小説にするのだから、読む前から面白いに決まっていますがやはり大変面白かったです。
生まれ育った田舎町ヴィレル・コトレで劇作家になって成功する夢を持ち、パリに出て10年足らずで劇作家としての名声を掴む。さらに小説家としても大成功して巨万の富を得て派手な生活をする一方で、父のように現実の世界で英雄として認められたいと望んで革命にのめりこむ。その革命と桁違いの散財が原因で破産に追い込まれるが最後まで楽天的に人生を使い切る爽快な人物デュマの一生。


もうすごいのひとことですよ。こんなめちゃくちゃな人がいていいの?
お父さんのデュマ将軍もめちゃくちゃな人だったけど、大デュマもスケール大きすぎ。とにかく天真爛漫というか、裏表がないというか。コイツ本気か!?っていう目で周りの人がデュマを見るたびに、噴き出してしまいました。章ごとに、視点が変わるのが面白かったです。デュマの周りにいるいろんな人たちの視点から、彼らのデュマを知っていく感じです。
普通、こういう大成功したあとに転落する人の伝記って、最後暗くなるじゃないですか。でも、デュマは違うんです。転落っていうか、もう墜落っていうくらい豪快にすっころぶので、転落しているデュマには悪いけどずっと笑いながら読んでいました。あそこまですがすがしく明るく破産できるなんてさすが大文豪。
父親を崇拝していて、心から自慢に思っているから自分のこともいつも肯定できる。だって自分はあのデュマ将軍の息子なんだからと。
ひとことで言えば、これが佐藤さんが物語を通して伝えてくれたデュマという人物ということになります。なんかわかるなーと思いました。三銃士を初めて読んだときの、衝撃的な面白さでわくわくして早くページをめくりたくて仕方がなかったあの感覚。圧倒的な楽しさ。あれを書く人物に、卑屈さは似合いません。デュマはこうでなくっちゃ、と思わず芝居が終わったあとのように拍手をしたくなりました。
芝居と言えば、今回「なんとなれば」という芝居がかった言い回しが多くて、それがこの喜劇ともいえる愛嬌たっぷりのデュマの話にピッタリ合っていて面白かったです。


デュマと同い年で同時代に活躍した文豪ユゴーや息子のデュマ・フィスのキャラもすごく好みでした。ユゴーとデュマの作風の違いだけでなく、二人の立場の違いにも納得。作品の人気は階級を問わずすごいけど、乱れまくった私生活のせいで作者本人への信用ゼロのデュマと、熱狂的な人気というものとは無縁だけれど、子供のころから天才として周囲に認められ、尊敬されるユゴー
ああ、わかるわかる。
って思わずうんうんうなずいてしまう説得力。やっぱり佐藤さんは面白いなと改めて思いました。
あ、そういや今回は珍しく汗臭くなかったな。佐藤さんの作品は、読んでいるうちに汗のにおいでむせそうになることが多いのですが、今回はカラッとしてました。佐藤さんの作品を読んだことのない人にオススメかも。